Q&A

公益社団法人日本地球惑星科学連合(JpGU)が発行するジャーナル「Progress in Earth and Planetary Science」について、現状や趣旨をより深く理解していただくため、QandA(Question and Answer)を用意いたしました。
さらなるご質問がある場合には、事務局(peps_edit@jpgu.org)までお問い合わせ下さい。
ご投稿受付は SpringerOpenのジャーナルサイト です。
ご投稿の際には、JpGUのPEPSサイト内「投稿・APC・テンプレート」をご利用ください。

日本地球惑星科学連合のジャーナル「Progress in Earth and Planetary Science」(PEPS)の概要

Q. 「Progress in Earth and Planetary Science」とはどのようなジャーナルでしょうか?
A.

1)「Progress in Earth and Planetary Science (PEPS)」は、日本地球惑星科学連合(JpGU)とJpGU参加額協会が共同で出版している「オープン・アクセス・電子ジャーナル(Open Access e-journal)」で、2014年4月に創刊されました。

2)SpringerOpenのジャーナルサイト「Progress in Earth and Planetary Science」で、地球惑星科学をリードする雑誌を出版しています。

3)ジーナルの構成は、研究論文(Research article)、レビュー論文(総論、Review article)、データ論文(Papers with full data attached)、方法論論文(Methdology)となっています。

詳細な投稿案内やテンプレートは、JpGUのジャーナルサイト「PEPS」でご覧いただけます。
皆様の研究成果の積極的投稿をお待ちしています。

「Progress in Earth and Planetary Science」の名前の由来

Q. 日本地球惑星科学連合(JpGU)のジャーナル名称はなぜ「Progress in Earth and Planetary Science」となったのでしょうか?
A.

日本地球惑星科学連合の『日本 地球惑星科学連合』から「日本」と「連合」を除いて直訳英語にすると『Earth and Planetary Science』となります。地球惑星科学の発展を祈願して、『Progress in Earth and Planetary Science』と命名することが理事会全員一致で決まりました。

なお、『Science』と単数になったのは、地球惑星科学の統合的な『Science』を目指すためです。

「Progress in Earth and Planetary Science」の具体的内容

Q. 「Progress in Earth and Planetary Science」はどのような体制で出版されているのでしょうか?
A.

PEPSは2つの委員会が中心となって運営されています:①ジャーナル企画経営委員会と②ジャーナル編集委員会です。前者は、ジャーナルの中長期経営戦略(企画、財政、方針など)をたて、運営の枠組みを作り、実行に移します。ジャーナルを出版する価格などの設定はこの委員会で決定されます。一方、ジャーナル編集委員会は、出版に至る実務を行います。これには、原稿受付、査読審査、受理、出版などが含まれます。特に、PEPS編集委員については、「真の国際誌」を目指して国内・海外の編集者の比率がほぼ50%ずつとなっています。

Q. 「Progress in Earth and Planetary Science」が掲載する論文のカテゴリーにはどのようなものがあるのでしょうか?
A.

論文のカテゴリーに関しては、研究論文(Research article)、レビュー論文(総論、Review article)、データ論文(Papers with full data attached)、方法論論文(Methdology)となります。研究論文は、通常の研究成果を掲載した論文となります。レビュー(総論、Review article)は、最新知識を体系的に集約した総論となります。PEPSでは、若手研究者や学生の教育・研究にも役立てていただきたいという考えから、オリジナルの研究論文に加えて、Review論文(総説)の出版を積極的に推進しております。データ論文(Papers with full data attached)とは、研究コミュニティで有効活用するために観測等で収集された貴重なデータを科学的根拠とともに提供します。方法論論文(Methdology)は、解析法、分析法など方法に特化した論文となります。いずれにしても、これらの4つのカテゴリーにおいて、魅力ある論文を掲載することを目標としたいと考えます。

Q. 「Progress in Earth and Planetary Science」で論文を発表する場合の条件について伺います:料金はどのようになりますか?
A.

料金は条件により以下の3通りです。

  • 招待論文場合:無料(100% Discount)
  • Corresponding Author(責任著者)がJpGU会員またはレビュー論文の場合:(20% Discount)
  • Corresponding Author(責任著者)が非会員の場合:通常価格
Q. 「Progress in Earth and Planetary Science」におけるレビュー(総論)の位置づけはどのようなものでしょうか?
A.

日進月歩の理科系の分野では、図書館においても、近年は「本」よりも「ジャーナル」の方に重点が置かれる傾向が顕著です。これは、ジャーナルの方が、本よりも、新しい情報が掲載される傾向があるためです。将来もこの傾向は継続すると海外の大手出版会社は予想しています。

基本的に、レビュー(総論)は、当該分野の最新の整理された情報に接する機会を提供し、最新の体系的な知識を集約する役割を果たすものと考えられます。そこで、レビュー(総論)は、大学等のゼミなどで積極的に使用していただくことで、コミュニティのレベルアップにも貢献すると考えます。

Q. レビュー(総論)に期待されるものを簡潔に表すとどのようなものでしょうか?
A.

箇条書きで挙げると以下のようになります。

  • あるテーマについて、分野を超えた研究者(学生)への解説と分野横断的な学問に発展するための取り組みと将来の課題の提示
  • 地球惑星科学の知識・理論・概念などを整理し、新たな研究の鉱脈の提示
  • 個々の論文だけでは理解しにくい、あるテーマの全体像の把握
  • 本から得られる情報に比べて、より最新の体系的な知識の提供
  • 新規プロジェクトに関しては、その分野に蓄積されたデータや従来の解釈のまとめと、これから導き出される今後の緊急の課題に関して
  • 過去のプロジェクトに関しては、プロジェクトを実施したことによる大きな研究の進展、そして将来の解決すべき課題の提示
  • 大学のゼミでの使用に関係して、若手研究者(学生、院生、PD)への最新情報の提供
Q. レビュー(総論)が実際、研究の進展に貢献しているという実証データはあるのでしょうか?
A.

レビュー(総論)は、特に進展の著しい分野において、有効な学術情報が得られる媒体として機能しています。これは、個々の論文のエッセンスをまとめることにより、現状を最先端の状況を把握し、次の有望なテーマを探ることに繋がります。

実際、薬理学・薬学の分野で出版された英文国際誌に関して、IFを調べると、トップ(IF=27)から7番目までの雑誌の中で、実に6雑誌がレビュー(総論)を積極的に掲載しています(棚橋・宮入 2004)。PEPSもこのように研究の進展につながるよう貢献できればと考えています。なお、日本人による英文レビュー(総論)の出版は10年間で3倍と、急速に増加しております。

Q. 日本人が英文でレビュー(総論)を書くのは、難しいのではないでしょうか?
A.

英語が母国語でない研究者が長文のレビュー(総論)を書くことは多少ハンデがあるかもしれません。しかしながら、国際プロジェクトなどの提案書を調べると、「その提案書の前半に相当する部文が、先行研究をまとめたレビュー(総論)で、後半に新規提案が記される」というのが普通です。このようなケースでは、複数著者があらかじめ議論をして、適当な項目ごとに分担執筆を決め、そして、最終的に1つの提案書(論文)とすることがよくあります。この方法であれば、レビュー(総論)執筆も可能と考えます。

PEPSの現時点までのレビュー(総論)の出版は、皆様の努力もあり、論文出版の25~30%を占めてきています。特に、グループ、あるいは分野横断的に数人以上の執筆者でまとめられたレビュー(総論)は、扱うテーマが広範囲となるので、引用数も多くなり、多数の方の今後の研究に役立ったものと思われます。

また、連合大会などでのkeynote(基調講演)の方による執筆は、その場に出席できなかった方々にとって非常に重要な情報となるかと思います。

Q. JpGU連合大会の国際化は「Progress in Earth and Planetary Science」にも影響を与えるのでしょうか?
A.

連合大会では、国際セッションの開催を促進してきました。特に、AGU、EGUとの共同セッション、あるいはJpGU-AGU共同開催などに伴う特別セッションなど、国際的な学術振興を目指すシンポジウムでのご講演を、是非ともPEPSにご投稿くださればと思います。

特に、興味深いセッションなどでは、オープン型の特集号(SPEPSを参照)を活用していただければと思います。ここでいう「オープン型」とは、当初予定される執筆者の他に、設定されたSPEPSのトピックスを見て、外部からの投稿も歓迎するものです。 1つのSPEPS(「SPecial call for Excellent Papers on hot topicS.」)につき、1つのレビュー(総論)を招待とし、APCを無料にいたします。

Q. 招待論文やセッションでのコンビーナーによる推薦論文の投稿では、査読は省略されるのでしょうか?
A.

一流の国際誌と同様に、投稿された原稿については通常の査読審査(peer review)を行います。これは、質の向上、公平性に鑑み、すべての論文について平等に作業を行うことの一環です。

SPEPSの具体的内容

Q. SPEPSとはどのような特徴があるのでしょうか?
A.

1)SPEPSは、PEPSがカバーする研究分野(宇宙惑星科学、大気水圏科学、地球人間圏科学、固体地球科学、地球生命科学、横断的分野)のテーマを扱っています。ただし、SPEPSは、「オープン型」となっておりますので、当初予定される執筆者の他に、トピックスを見て、外部からの投稿も歓迎しています。

2)通常通り、SPEPSではレビュー論文(総論、Review article)、研究論文(Research article)、データ論文(Papers with full data attached)、方法論論文(Methdology)を扱い、Letter論文は扱いません。

3)通常のPEPSへの投稿論文と同様の査読・出版プロセスを経て出版されます。

4)出版された論文はSpringerOpenの論文サイトに掲載される他に、SpringerOpenおよびPEPSホームページの各SPEPS頁にも収録されます。(https://progearthplanetsci.springeropen.com/articles/collections, https://progearthplanetsci.org/ja/articles_on_speps/

5)「SPEPS」では基調講演的な総論(review articles)が含まれていることを原則とします。すなわち、各々のSPEPSでは、全体をまとめたReview論文を掲載するのを原則としております。このReview論文の1つについては、PEPSへの論文掲載料(APC= Article Processing Charge)を無料としたいと思います。

Q. SPEPSと他のジャーナルの特集号の違いはなんですか?
A.

著者があらかじめ企画委員会で決められている他のジャーナルの特集号とはことなり、一般からの投稿も募集する外に開いた(開放型)の特集号です。退官記念論文集や追悼論文集に関しては、国際的に優れたインパクトのあるテーマを含む企画に限って受け付ける場合があります。

オープン・アクセス・電子ジャーナル

Q. 「オープン・アクセス・電子ジャーナル」とはなんでしょうか?
A.

オープン・アクセスとは、読者がお金を支払わずに自由に閲覧できるという意味で、電子ジャーナルとは、紙媒体に印刷しない電子ファイルのみで刊行されるジャーナルのことです。

Q. オープン・アクセスの特徴はなんでしょうか?
A.

実質的には「著者が版権を有す」とお考えいただいて結構です。誰でもネットを通じて読むことができます。もちろん、著者のホームページに論文そのものを掲載することも自由です。日本は母国語が非英語圏であり、ジャーナルへのアクセスという点ではこれまで英語圏のジャーナルとは幾分立場が弱い傾向がありました。しかし、オープン・アクセスの場合にはその立場は強化され、keywordsなどを介して検索することが容易となり、皆様の研究成果が世界中の研究者に読まれる頻度が高まると予想されます。

Q. オープン・アクセスの派生効果としてどのようなことを挙げることができるでしょうか?
A.

従来は、図書館が学術雑誌を購入し、それを皆様が購読するというシステムでした。このことは、図書館が学術雑誌を購入できなくなってしまうと、新しい論文を研究者が読めなくなるということを意味します。オープン・アクセスであれば、たとえ図書館経費などが削減されたとしても、「読者はお金を支払わずに自由に閲覧できる」ので、世界中の研究者が皆様の学術成果を読むことができます。

Q. 従来の図書館型購読モデルでパッケージ契約が破棄された場合はどのようになるのでしょうか?
A.

図書館にすでに購入された紙媒体の冊子はもちろん読めます。問題は電子化された部分です。通常、購読契約が結ばれなくなると、購読契約が結ばれなくなってから出版された論文のみならず、アーカイブへのアクセスも電子化された場合には不可能となります。例えば、Cジャーナルというものがあったとします。2024年の契約を最後に、購読契約を延長しなかった場合、2025年以降のCジャーナルも読めないばかりでなく、通常は過去に発行されたものについても読めなくなります。

Q. 経済情勢は、図書館での雑誌購読にも影響するのでしょうか?「オープン・アクセス・電子ジャーナル」と対比して、説明していただけませんか?
A.

大学の図書館で雑誌購読の契約額が毎年数%上昇し、大きな問題となっていることは皆様のご存知のとおりです。また為替変動によって円安が進むと、雑誌の購入価格が大幅に増えることが危惧されます。海外の大手出版会社はしばしばパッケージ契約を提案します。その場合、約2,000雑誌の購読が可能ですが、大学予算が不足して個別契約になると、購読できる雑誌数は激減し、200雑誌程度になるとの試算もあります。このような場合でも「オープン・アクセス・電子ジャーナル」では、投稿者が出版費を負担し、半券を有しているので、世界中の全て研究者が制限なく「オープン・アクセス・電子ジャーナル」に掲載される論文を閲覧できるので、問題ありません。

Q. 冊子媒体であると、図書館が購入した過去の雑誌は永久に読めますが、「オープン・アクセス・電子ジャーナル」の場合にはどのようになるのでしょうか?
A.

PEPSが契約している「オープン・アクセス・電子ジャーナル」の論文では、世界各地にデータを分散させて保存するサーバー群で永久に保存される規則が適用されます。ほとんどの大手・中堅の出版社では、現在、出版された雑誌が永久に保存されることになっています(注意:永久には保存される保証のない会社も存在します)。そこで、一旦、PEPSに掲載された論文は、将来にわたって自由に閲覧できることが保証されます。また、将来出版社(出版プラットフォーム)が変更になった場合であっても、論文を自由に閲覧できることが保証されます。現在、「Progress in Earth and Planetary Science」はSpringer社と協力して出版を行っていますが、「自由閲覧」、「永久アーカイブ」について最高ランクのサービスを提供できています。

Q. 「Progress in Earth and Planetary Science」のアーカイブはどのように保存されるのでしょうか?
A.

出版された論文のアーカイブは、世界の数カ所にある巨大なデータセンターに半永久的に保存されることが世界的規模の出版社では義務づけられています。現在、pdfが作製されていても、巨大データセンターに保存されていないと、出版会社が倒産・廃業などした場合には、pdfは散逸してしまうかもしれません。「Progress in Earth and Planetary Science」の場合には、そのようなことはありません。また、著者が亡くなった後でも、その論文を含めて、再編集して本などを作る場合であっても、論文の著者を記せば、自由に使用することができます。

Q. 冊子体では、他の論文と合わせて冊子体を作るために、出版を待つことがありますが、これは「オープン・アクセス・電子ジャーナル」でも同じなのでしょうか?
A.

違います。
「Progress in Earth and Planetary Science」では、論文が受理され次第、「doi番号」が付与され、電子出版は、随時発行となります。

Q. 「Progress in Earth and Planetary Science」に出版された論文のpdfをホームペ-ジで紹介できますか?
A.

「Progress in Earth and Planetary Science」は「オープン・アクセス・電子ジャーナル」なので、著者自身が版権を有しているので、皆様個人のホームペ-ジに、ご自分の論文のサイトや図、pdfを自由に掲載できます。これにより、成果をアピールすることができます。

Q. 「オープン・アクセス・電子ジャーナル」のビジネスモデルとはなんでしょうか?
A.

従来のジャーナルの経営は基本的に図書館経費に依存してきました。「オープン・アクセス・電子ジャーナル」ではコストの負担者は幾つかに分類できます。①研究費提供組織、②研究所、③投稿者が代表的なものです。最も異なる点は「図書館経費ではない」点です。一般的には、投稿者(著者)が投稿料としてお金を支払うという場合が多くなります。ただし、オープン・アクセス・電子ジャーナルの普及とともに、様々な形態が出現しています。オープン・アクセス・電子ジャーナルの先進地域であるヨーロッパでは、投稿者は一部を支払うのみ(場合によっては負担なし)で、①研究費提供組織、②研究所など研究費による補填が行われることが多いようで、投稿者の実質負担(自身の研究費からの出費)は軽減されています。

Q. 「Progress in Earth and Planetary Science」では、「独り立ち」にむけてどのような目標を設定しているのでしょうか?
A.

「オープン・アクセス・電子ジャーナル」で「独り立ち」するには、この分野での主要国際ジャーナルと同等以上の評価を得る必要があります。なぜなら、「オープン・アクセス・電子ジャーナル」は現在のところ投稿者が掲載料金を支払うことになっているからです。世界の研究者から魅力のある雑誌と思われるように、「情報発信力を高める」必要があります。ただし、JpGUは「単純に不採択率を上げる」ことは考えていません。「質の高い論文の投稿」を促す努力をしていきたいと思っております。2014年の創刊以来、「Progress in Earth and Planetary Science」 の評価は向上してきており、皆様のおかげで、当該分野での学術ジャーナルとして、世界のリーディングとの地位はほぼ確立したと考えています。

Q. 「オープン・アクセス・電子ジャーナル」がこの十数年間で、非常に伸びている理由は何でしょうか?
A.

ヨーロッパなどでは、「オープン・アクセス・電子ジャーナル」が新しい大きな潮流となっています。この哲学は、「研究成果は納税者も含めた社会全体に還元されるべきである」という考えに基づくものです。誰もがアクセスできるよう、EUは巨額の資金を投じて、「オープン・アクセス・電子ジャーナル」とともに「既存雑誌のオープン・アクセス化」を推進しています。北欧などの国では、国民の税金で行われた研究成果は「オープン・アクセス・電子ジャーナル」(全ての国民が無料でアクセスできる)に投稿する事が義務づけられています。また、アメリカでもアメリカ国立衛生研究所(NIH)から予算を受けて行った研究の成果は、発表後1年以内に公衆が無料でアクセスできる状態にしなければならない、ということが2007年末に法律で義務化されました。

Q. 「オープン・アクセス・電子ジャーナル」に関したヨーロッパの動向はどうでしょうか?投稿者が経費を負担ということから始まりましたが、将来もそうなのでしょうか?
A.

ヨーロッパでは、研究費提供組織を通じてオープン・アクセス・電子ジャーナルへの投稿を促しています。具体的には、著者の実質負担を大幅に軽減するよう一種の補助金を出しているとのことです。例えば、C研究所がD出版社と包括契約を結んでいる場合には、C研究所の研究者がD出版社の「オープン・アクセス・電子ジャーナル」で論文を発表しても、自己負担でなく、C研究所が公的資金で負担するといったことが行われています。

日本政府も「科学研究費補助金(研究成果公開促進費)」を通じてオープン・アクセス支援にのりだしましたが、趣旨は①「成果は納税者にオープンに還元」、②「図書館からオープン・アクセス支援への重点の移行」という世界の先進国の大きな流れにそったものです。この分野で前を走るヨーロッパを見る限り、オープン・アクセス・電子ジャーナルへの公的支援は期間限定的なものでなく、継続的に発展するものと予想されます。

インパクトファクター(IF=Impact Factor)

Q. IFについて、教えて下さい。
A.

IFはある雑誌の発行された論文がどの位引用されたのかを示す数字で、この値が大きいほど一つあたりの引用率が高いということになり、一般的に雑誌として高い評価を受けています。IFにはIF2yearとIFI5yearがあります。例えば、「Progress in Earth and Planetary Science」のIF2yearの場合、2023年(4~12月)と2024年(1~12月)に出版された論文が2025年に引用された延べ回数を、2023年と2024年に出版された総論文数で除したものが、2025年のIF2yearとなります。IF5year の場合には、5年間で計算するということになります。この外に代表的な雑誌の評価には、Elsevier社が提供するScopusのCiteScoreというものがあります。皆様のご投稿により「Progress in Earth and Planetary Science」のIF2year、IFI5year、CiteScoreの値は、この10年間に着実に増加し、当該分野での学術ジャーナルとして、世界のリーディング学術ジャーナルとほぼ同等の評価指標値をいただくまでに成長しました。

Q. 研究の質の定量的評価指標として被引用数を用いる場合の注意とはどのようなものでしょうか?
A.

被引用数ベースで影響度の測定を行う際の問題には、論文が引用され始めるまでのタイムラグの存在や次のQ&Aに示したような様々な弊害が大きいことも事実です。特に、地球惑星科学では、タイムラグが長いこと、研究者の人数が他主要分野と比べると少ないことなどを挙げることができます。

Q. IFの誤った使い方が問題との指摘がありますが、どのような使い方でしょうか?
A.

IFは、元来「どの雑誌を図書館に置くか」というジャーナルの評価指標として使用されてきました。IFの高いジャーナルに掲載されたすべての論文が、多く引用されるわけでもありません。ジャーナルによっては被引用数上位25%の論文が引用全体の89%を稼ぐといった報告もあり、非常に高いIFを示すジャーナルでも、ほとんど引用されない論文が相当数掲載されていることが実証されています。これは、一部の論文だけが、被引用数の多くを獲得しているということを意味しており、学術ジャーナル関係にはよく知られています。

一つのジャーナルの中でも論文ごとに様々な性質があり、IFを用いて、雑誌でなく「個々の論文や研究」を直接評価することは、一般には誤りだとされているので、注意を要します。

Q. なぜ「Progress in Earth and Planetary Science」では高いIFを目指すと科学研究費補助金(研究成果公開促進費)での申請書に書かれたのでしょうか?
A.

まず、前提条件について述べます。科学研究費補助金(研究成果公開促進費)では、ジャーナル評価に関して「数値目標」を記すことが強く求められています。

従来型のジャーナルでは、論文掲載の大部分の支払いが図書館経費(税金)で賄われます。しかし、「オープン・アクセス・電子ジャーナル」では、原則投稿する著者が支払う必要があります。この時点で、ビジネスとしてはハンディキャップがあります。そこで、「オープン・アクセス・電子ジャーナル」では、誰でも読める(閲覧数の増加)、皆が注目するジャーナルとする必要があります。

Q. IFが高いことは、それほど重要でしょうか?
A.

現在のほとんどすべてのジャーナル出版では、読者がIFの高いジャーナルに目を通すことが多いことが知られています。まずは、手に取ってもらえるジャーナル、という観点より、当該分野での学術ジャーナルとして、世界のリーディング学術ジャーナルとほぼ同等の評価指標値をいただくことは必要条件となります。

IFは、分野の研究者数などにも影響を受けます。地球惑星科学の分野の研究者・学生の人数はあまり多くないので、医学・生物学などと比較すると低くなってしまいます。同じ分野で比べた場合、コミュニティへの影響度が高い論文が掲載されていると高くなる傾向があります。PEPSは国際的なフレームワークの中で、海外の研究者も読んでもらえる雑誌を目指しています。最重要の目標は、あくまで「質の高い論文を掲載するよい雑誌」を作ることです。これを認識して、編集活動を行っています。

Q. 英文によるジャーナル出版に関して理学系の他の分野の動向はどうでしょうか?
A.

日本化学会には4つのジャーナルがあります。この中の2つは、海外の出版社との提携で出版されていますが、日本化学会が主導的役割を果たして高いIF(4と5)を維持しています。生物関係では、植物生理学会の出版する英文誌が過去にIFを約2から4以上へと、この分野の世界的成果を掲載できるまでに成長したと皆から高く評価されています。また、物理学の分野では、過去のノーベル賞に関係した論文が日本の学会の英文誌に掲載されているそうです。とはいえ、極東に位置する日本でのジャーナル出版に関して、ほとんどの学会が大変な苦労をしているのも事実です。
*植物生理学会の国際誌Plant and Cell PhysiologyのIFは以下の通りです。
FY、IF(2024年3.90、2010年4.26、2004年3.26、2001年2.43、2000年2.31)

将来への質問

Q. 図書館経費が高騰し、知的財産へのアクセスという点で問題となっていますが、 JpGUジャーナルはこの問題にどのように影響すると考えているのでしょうか?
A.

既存のジャーナルは図書館からジャーナル代金を回収しています。先般、海外A会社のパッケージ購読価格が30%以上値上がりしました。その際、不買運動をしてはどうか、といった議論もでましたが、寡占状態となっている現状では、それはかえって研究者の活動を低下させるという理由で見送られました。JpGUのオープン・アクセス・電子ジャーナルが将来伸びて、A会社の雑誌と同等のレベル以上になれば、JpGUジャーナルに投稿されるよう誘導できると考えられます。また、これは一般市民の税金で実施された研究を社会に還元することにもつながると考えます。

Q. Progress in Earth and Planetary Scienceは今後、どのように育成していく方針でしょうか?
A.

Progress in Earth and Planetary Sciencegは、JpGUのコミュニティと関連する海外の研究者の質の高い学術成果を論文として発表することを最優先としてきました。この方針は堅持するつもりです。現在、PEPSは国際的なフレームワークの中で、当該分野の学術ジャーナルとして、海外のリーディングの地位にほぼ達したので、海外の研究者から積極的に投稿してもらえるような雑誌を目指しています。

出版会社との契約に係る要点

Q. 「Progress in Earth and Planetary Science」の命名権というのは、誰が持っているのでしょうか?
A.

いわゆるtitle rightと言われるものです。このジャーナルのオーナーはJpGUなので、出版会社との契約が終了すれば次の契約出版社と同名ジャーナルを出版することになります。現在、PEPSはSpringerNature社と協力して、地球惑星科学の分野で国際的に一流誌となるよう努力しています。

Q. doi番号などは著者が申請するのでしょうか?
A.

これは出版会社が付与するので、著者には事務上の負担はありません。

日本地球惑星科学連合のジャーナル出版の背景

Q. 連合がジャーナル出版をする意義とはどのようなものでしょうか?
A.

個々の研究者のレベルでみると、海外のジャーナルへの論文の投稿で十分との意見があります。一方、コミュニティのレベルでみると、「学問の自由・独立」といった観点から地球惑星科学関連を網羅するようなジャーナルの存在は重要と考えられます。ジャーナルは研究者の成果の発表の場ですが、これまでも社会の混乱(経済的困窮、戦争など)、イデオロギーの対立などにより世界的レベルで誌上発表などが影響を受けたことがあります。そこで、日本のコミュニティとして「学問の自由・独立」といった観点からも独自のジャーナルをもつことは重要です。一般的に影響力のあるジャーナルを発行することが、そのコミュニティの力と評価されます。

その他

Q. 日本人同士の引用が少ないといううわさがありますが、本当でしょうか?
A.

JpGU加盟学会の国際誌のジャーナルの編集長を経験された複数の方のお話によれば、残念ながら、「日本人の論文を(引用が妥当なのに)引用しない」傾向があるようです。これからは、欧米、日本関係なく、関連する論文を引用するようになればと思い、「日本人の成果を認め合い、相互の論文引用を促進」へメンタリティの意識改革が必要かと考えます。

Q. 学問の進展は速くなっていて、次々に新しい論文が出版されていますが、これらを読み尽くすことはできるのでしょうか?
A.

研究費の増加、研究者の増加を反映して、ジャーナルの数も増加し、もちろん出版される論文も急速に増加しています。一方で、研究者が研究に配分できる時間は限られています。1年間にどの位論文を読んでいるかという調査の過去40年間にわたるデータに基づくと、1977年には150本だったものが、今世紀に入り頭打ちとなり、欧米研究者で年間260本となっています。限られた本数しか読めない現状では、より質の高い論文が求められるということになります。高いレベルのレビュー(総論)は数十本以上の論文のエッセンスをまとめたものです。PEPSは、レビュー(総論)の出版を通じて、世界の最前線を切り拓くコミュニティのレベルアップにも貢献したいと考えています。