熱帯西部太平洋暖水プールにおける大気中の一酸化ヨウ素・オゾンおよび海面中のヨウ素の同時観測:海から大気への無機ヨウ素フラックスと大気中の一酸化ヨウ素濃度の強い正相関
- Keywords:
- atmospheric chemistry, iodine monoxide, iodate, iodide, ozone, MAX-DOAS, chemical transport model, seawater sampling
ヨウ素化合物は触媒的にオゾン (O3) を破壊するとともに、エアロゾル粒子の生成に関与し、地球の放射収支の観点から重要な物質である。大気中のヨウ素化合物の起源は主に海からの放出と考えられおり、近年では沿岸域に加えて沿岸から離れた外洋域での放出が重要と考えられるようになってきた。我々のこれまでの研究から、世界的海面水温の極大域である熱帯西部太平洋 (暖水プール) において、ヨウ素化合物の一つである一酸化ヨウ素 (IO) の濃度が高いことが示され、我々はその海域でのヨウ素に焦点をあてて研究を行ってきた。
本研究は、2021年5月から7月にかけて、海洋地球研究船 「みらい」 により、熱帯西部太平洋 (暖水プール) にて、大気中のO3ならびにIO、海水面中のI⁻ の同時観測を初めて実施した。暖水プールにおける大気中のIOは、これまでの研究と一致して、最大約1 pptvに達し、高濃度であった。大気中O3 ・海水面中ヨウ化物イオン (I⁻) の観測から算出した海から大気への無機ヨウ素フラックスと、大気中IO濃度との間には、強い正の相関 (r = 0.95) がみられ、これまでの研究で想定される海から大気へのヨウ素フラックスおよび関連過程が、暖水プール域でも適用できることが示唆された。
化学輸送モデル (CHASER) によるシミュレーションを実施したところ、正の相関関係を再現することができた。しかし、モデルはIO濃度を約40%過大評価しており、それは系統的な不確実性に起因し、モデルで仮定している放出フラックスやパラメータの精緻化が今後求められる。本研究の結果は、大気中のO3およびIOと海水中のヨウ素の同時観測が、ヨウ素に関連した海洋―大気間過程の解明に極めて重要であることを示している。