日本語要旨

地質学的・地球物理学的データを用いた西南日本における中央構造線断層破砕帯特性の定量評価

断層破砕帯は脆性変形の進化過程を記録し,岩石強度や流体流動を制御する上で重要な役割を果たす.本研究では,西南日本における中央構造線断層破砕帯について,地質学的および地球物理学的手法の統合解析により,その幅と内部構造を定量的に評価した.
中央構造線を貫く全長125 mの掘削コアを対象に,詳細なコア観察,X線CT画像に基づく割れ目解析,およびボアホール地球物理検層データを用いた解析を行った.X線CT画像から割れ目密度・強度・平均長さなどのパラメータを自動的に抽出する画像処理手法を提案し,適用した.その結果,割れ目の累積頻度曲線から,断層破砕帯が上盤で約24 m幅,下盤で約2 m幅であり,著しく非対称であることが明らかになった.この非対称性は,岩石の剛性率の変化からも支持される.
また,既往研究の断層変位量と断層破砕帯幅とのスケーリング関係を再解析した結果,断層破砕帯幅は上盤と下盤の構造配置よりも,岩相によって強く支配されることが示唆された.この結果は,本研究で認識された中央構造線断層破砕帯の力学的コントラスト(上盤の和泉層群堆積岩が相対的に柔らかく,下盤の三波川変成岩がより硬い)と整合的である.この断層破砕帯は約15–14 Maの正断層運動によって主に形成されたと推定される.また,割れ目の形成条件による深度制約から,地殻浅部(約3.5 km以浅)で形成されたことが示唆され,これは先行研究による粘土鉱物の安定条件とも一致する.
地質学的・地球物理データを統合した本研究の手法は,掘削コアを用いた地殻浅部の断層破砕帯の特性評価に有効であると考えられる.このような断層破砕帯の定量的評価は,中央構造線のように地殻深部から浅部において複数の変形構造が重複する断層において,断層破砕帯の発達過程を制約する上で重要である.