海洋グリッドデータを用いたシャコガイ同位体温度計:利点と問題点
- Keywords:
- Tridacna, oxygen isotopes, sea surface temperature, salinity, Ryukyu Islands, Okinoerabu Jima, Ishigaki Jima, gridded data, in situ monitoring data
シャコガイ殻の酸素同位体比に基づく海水温度計(TOITs:Tridacnine oxygen isotope thermometers)には、海水温(SST)および塩分(SSS)のグリッドデータが使用されることがあるが、正確な温度計作成のためにはグリッドデータとシャコガイの生息地点で観測された両記録との整合性のチェックが必須である。現在、さまざまなSST・SSSデータが利用可能だが、TOIT作成に最適なデータセットが何であるかは十分に精査されていない。本研究では、琉球列島の2島(沖永良部島・石垣島)で採取されたシャコガイを用いてTOITsを作成した。3種類のSSTデータ(Extended Reconstructed Sea Surface Temperature [ERSST]・Sea Surface Temperature data of Integrated Global Ocean Services System [IGOSS SST]・Hadley Centre Sea Ice and Sea Surface Temperature dataset [HadISST])と2種類のSSSデータ(Simple Ocean Data Assimilation ocean/sea ice reanalysis [SODA3.15.2]・Met Office Hadley Centre “EN” series [EN4.2.2])を用いて、1個体あたり6種類のTOITを作成し、TOIT間の傾き・切片の違いを評価した。その結果、データセットの組み合わせに関わらず、作成されたTOITの傾きと切片は、先行研究で報告されたTOITsに近い値を示した。しかし、沖永良部島の最寒月におけるIGOSS SSTとERSSTの間には1 °C近い有意差が認められ、TOITの傾きに差をもたらしていた。この最寒月SSTの違いは、2°グリッドデータ(緯度・経度で2°ごとの区画に分割された地理空間データ)であるERSSTが冬季の黒潮前線の南下の影響を受ける一方で、1°グリッドデータであるIGOSS SSTはその影響を受けないことが原因と考えられる。したがって、SSTデータセットの選択によって、最寒月の復元水温に1 °C近い差が生じうる。塩分データに関しては、2つのSSSデータセット間で約0.8(海水の酸素同位体比に換算して約0.25程度)の違いが認められたが、これはTOITの傾き・切片に有意な違いを与えなかった。このように、SST・SSSのグリッドデータを用いてTOITを作成する場合には、対象となるシャコガイの生息地点と同じ環境を反映したデータセットの選択が必要である。また、たとえグリッドデータが生息地点での観測記録と同様であったとしても、それは異なる要因によるものである可能性があることにも留意しなければならない。本研究では、琉球列島における平均的なTOITとして次式を提案した:SST = − 3.95 ± 1.02 × (δ18Oshell[VPDB] − δ18Osw [VSMOW]) + 20.50 ± 2.75 (2σ)。