日本語要旨

汽水湖尾駮沼における CO2 動態のシミュレーション:多様な栄養塩供給による低 pCO2 の維持

沿岸水域は陸域から海域への化学物質輸送の重要な経路として機能しており、沿岸水域の炭素循環の解明は気候変動理解において不可欠である。本研究では、青森県六ヶ所村の汽水湖である尾駮沼において、三次元流体力学-生態系モデルを用いて CO2 動態とその制御要因を調べた。モデルは水温、塩分、栄養塩、クロロフィル a、炭酸系成分の季節変動を良好に再現した。シミュレーション結果により、尾駮沼の CO2 分圧(pCO2)は年間を通じて大気レベルを下回り、沼が CO2 吸収源として機能していることが示唆された。pCO2 変動は温度変化に駆動される空間的に均一な季節パターンが支配的(90%)で、夏季には河川流量の規模に応じて異なる空間パターン(6.0%)が現れる。尾駮沼では、河川水と海水の混合により形成される水塊の炭酸系成分特性によりpCO2 が低く維持され、さらにこれらの水塊内での一次生産が pCO2 を低下させる。この一次生産は、窒素に富む河川水と、夏から秋の堆積物からの季節的なリンの供給、冬から春の海域からのリンの供給によって維持される。これらの栄養塩源の季節的組み合わせが年間を通じた一次生産を支え、尾駮沼のpCO2 低下に寄与していることが明らかになった。