日本語要旨

日本海溝アウターライズにおける正断層の幾何学的特徴と活動しやすさ

海溝海側アウターライズ域の海洋プレートは,海溝に接近するにつれて折れ曲がるとともにプレート内正断層が発達し,時に大規模な地震(アウターライズ地震)が発生する.日本海溝付近では,1933年(昭和8年)の昭和三陸地震としてマグニチュード8を超えるアウターライズ地震が発生し,大規模な津波を引き起こした.2011年東北地方太平洋沖地震の後には,この地域でいくつかのアウターライズ地震が発生しており,その中にはマグニチュード7級の地震も含まれている.しかしながら,多くの断層が分布するアウターライズにおいて,どのような断層がアウターライズ地震を引き起こす可能性が高いのかは,いまだ明らかではない.アウターライズに発達する正断層の幾何学的特徴は,その断層の発達過程を反映し,現在の応力場のもとでの活動性に寄与にすることから,地震発生リスクを評価するために重要な意味を持っている.
本研究では,アウターライズに発達する正断層の幾何学的特徴に基づき,応力場と幾何学的な断層形状から算出した断層のすべり傾向(スリップテンダンシー)によって正断層の活動性を評価した.断層近傍の応力場は地震の発震機構から計算し,断層形状は海底地形図ならびに,深度変換したタイムマイグレーション処理後の2D反射法地震探査断面で抽出した.推定された応力場と断層形状から,日本海溝アウターライズ地域に発達する正断層のスリップテンデンシーとして,力学的なすべりやすさを計算した.以上の結果,西傾斜断層のスリップテンダンシーは東傾斜断層に比べて有意に高いことが分かった.また,海洋底拡大に起因する構造的弱線である古いアビサルヒル断層はすべり傾向が低いことも確認された.さらに,日本海溝の38.8°〜39°N付近ではスリップテンダンシーが低い断層が分布しており,この地域では磁気異常線が連続していないことやフラクチャーゾーン断層が発達していることが認められた.本研究は断層活動性の分析に基づき,日本海溝アウターライズ地域における地震発生が空間的に不均一であること,そして西傾斜断層での発生可能性がより高い可能性を示唆している.