GNSS-A海底地殻変動観測における内部潮汐の効果
- Keywords:
- GNSS-A Internal tides Seafloor geodesy
GNSS-A観測は、Global Navigation Satellite System (GNSS) 観測と音響測距を組み合わせることにより海底のセンチメートル (cm) レベルの地殻変動を検出する技術であり、南海トラフや日本海溝などの海域巨大地震のメカニズム把握のために用いられている。しかしこの観測では、海洋中の擾乱が音響測距に与える影響が大きく、その影響の軽減が課題となっている。
この論文では海上保安庁が運用するSeafloor Geodetic Observation-Array (SGO-A) 観測網のデータを分析し、半日程度の海洋擾乱の影響を調査した。結果として、海洋内部潮汐のM2分潮の周期の影響がGNSS-A観測では顕著であり、その除去が重要であることが示された。本研究では、簡易的な数値実験によって、音響測距への影響を評価しており、モード1の内部潮汐がおよそ数cmから10 cm程度の誤差源となっていることがわかった。また高次モードの内部潮汐では、深さの変化によって音速度の速い側が変化するため、海面と海底からしか場を把握できないGNSS-Aでは複雑な影響が生じることがわかった。これによって、これまでの研究では解釈できなかった異常な観測事例の説明が可能となった。
また、本研究の解析における副次的成果として、内部潮汐の波の向き、影響の大きさ、空間周期も取り出すことができ、海洋学的な解釈が可能となった点が挙げられる。図は一例を示しており、豊後水道から日向灘周辺の観測点での内部潮汐の流れの向きや空間周期が定量的に検知されている。現在のGNSS-Aは主に船舶で実施されるため観測頻度が非常に低いが、将来、連続観測が実現した場合にはこうした副次観測による海洋学的な貢献も期待される。本研究は、固体地球科学分野に該当するGNSS-A観測の解析精度の向上に向けた基礎的な知見であるとともに、GNSS-Aの海洋学的な応用とその結果による発見であり、海洋学と固体地球科学が相互に応用された学際的研究の成果ということができる。