日本語要旨

A-SKY/MAX-DOAS法による大気下層水蒸気濃度の水平不均一性の長期連続観測

2017年から2022年までの6年間、我々はつくばと千葉において、国際リモートセンシング観測網(A-SKY; Air Quality and Sky Research Remote Sensing Network)の枠組みのもとで多軸差分吸収分光法(MAX-DOAS; Multi-Axis Differential Optical Absorption Spectroscopy)を用いた大気下層(0–1 km)の水蒸気濃度の長期連続観測を実施した。本研究では、A-SKY/MAX-DOASによる大気下層の水蒸気観測の精度を検証するとともに、水蒸気濃度の水平方向の不均一性の観測能力を評価することを目的とした。つくばにおいて得られたA-SKY/MAX-DOASの観測データは、ラジオゾンデによる水蒸気観測と高い相関(R = 0.971)を示し、この手法の精度と有効性が示された。千葉においては、東西南北の4方位に観測視線を向けた4方位観測システム(4AZ-MAXDOAS)を用いて、大気下層における水蒸気濃度の水平不均一性を捉えることができた。4方位のデータを解析した結果、水蒸気濃度の水平不均一性は大気の不安定性と相関しており、大気が不安定な条件下でその不均一性が増大する傾向が確認された。大気が安定している場合には、任意の2方位間の相関係数は0.95を上回ったが、不安定な場合にはすべての方位で0.95を下回り、時には0.90を下回ることもあった。この関係をさらに詳細に調べるため、観測された全事例のうち、特に不安定な上位3.6%に相当する15事例を特定した。そのうち11事例では、日本上空の停滞前線が千葉の観測地点の北側に位置していた。これらの事例について、気象庁の局地解析(LA; Local Analysis)を用いた検証により、停滞前線に向かって暖かく湿った空気が流入していることが確認された。この暖湿流の流入が、水蒸気濃度の水平不均一性および大気の不安定性の要因となっていた可能性がある。また、これらの不均一性はA-SKY/MAX-DOASによって捉えられていた。しかしLAでは、A-SKY/MAX-DOASの誤差範囲内であったものの、それらは適切に検出されていなかった。このことは、LAでは見落とされがちな大気下層の水蒸気濃度の水平不均一性を把握するうえで、A-SKY/MAX-DOASが果たす重要な役割を示している。