日本語要旨

夏季西部北太平洋のエアロゾルと雲を対象とした航空機と研究船による統合観測研究

下層雲は太陽放射を反射することにより地球が受け取る放射エネルギーを減らすため、その動態の理解は地球の気候を考える上で重要である。特に夏季の西部北太平洋は下層雲量が多く、その雲放射効果は、多くの研究がなされてきた亜熱帯東太平洋の下層雲よりも大きい。本研究では2022年夏に西部北太平洋(北海道の東方沖)において、航空機と研究船を用いてエアロゾルと雲の統合的かつ詳細な観測研究を初めて実施した。この観測の第一の目的は、本領域のエアロゾルの物理的・化学的性質を明らかにし、人為的・自然的発生源からの雲凝結核(CCN)および氷晶核(INP)への寄与を評価することである。第二の目的は、本領域の下層雲の鉛直構造を明らかにし、亜熱帯の下層雲との類似性や相違点を明らかにすることである。本論文では、本観測プロジェクトの概要と、現時点までに得られている成果について紹介する。船舶と航空機観測、さらに観測をよく再現する数値モデルシミュレーションから、本領域においてはCCNとして機能するエアロゾルの多くが人為起源であることが示された。このシミュレーションからはさらに、海洋からのCCNの放出がある時とない時の雲の放射効果の差は9%程度であることが示された。一方、INPとして働く可能性のある海水中の浮遊粒子物質については、その粒子タイプ(珪藻の断片など)ごとの粒径分布の測定に成功した。また航空機から採集したエアロゾルの分析により、INPとして重要とされる鉱物ダストについて、その発生源地域から離れた領域における数濃度と粒径分布を導出することができた。航空機からの雲観測では、寒気移流時では下層雲は断熱的な鉛直構造を示す傾向がある一方、暖気移流時では断熱性が低い多層構造を示すことが明らかとなった。このような多層構造をもつ下層雲は、これまでの亜熱帯での観測ではあまり見られなかったものである。以上のように、本研究で実施された統合観測から、夏季の西部北太平洋におけるエアロゾルと下層雲の基本的な描像が明らかになりつつある。