機械学習によるユーラシア永久凍土帯最南端域、モンゴル中央部ハンガイ山地における湧水現況の空間分析
- Keywords:
- Machine learning, Mongolia, Onsite- and satellite-image-based mappings, Permafrost, Spring discharge
ユーラシア永久凍土帯最南端域では、湧水は牧畜生を支える重要な生態系資源である。近年、湧水の枯渇が顕著になってきたが、その要因については未解明のままである。本研究では、モンゴル中央部のハンガイ山地で、数十年前には湧出していた湧水の現況を評価した。合計1620の湧水地点を官製地図から特定し、そのうち228の湧水の現況(湧出中、枯渇)が、2019年夏季の現地観測と、2008~2020年に撮影された可視衛星画像によって同定できた。残る1392地点の現状を予測するために、ロジスティック回帰(LR)、ランダムフォレスト(RF)、サポートベクターマシン(SVM)などの機械学習アプローチを適用し、説明変数として植生指標や水文学的パラメータを参照した。トレーニングおよびテストデータセットが不均衡(枯渇:44、湧出:192)であることや、サンプル数が少ないことを勘案し、交差検証や最大最小正規化などを適用することにより過学習を最小化した。得られたモデルは高い予測性能を示し、AUC-ROC(Area Under Curve – Receiver Operating Characteristics)は0.84(LR)、0.86(RF)、0.84(SVM)であった。 また、不均衡なデータセットに対するモデルの性能を示す基準であるPrecisionとRecallのAUC(AUC-PR)は、ランダム分類の場合と比較して0.32から0.52向上した。湧水現況を決定する最も重要な説明変数は、MNWDI(Modified Normalized Water Difference Index)とNDVI(Normalized Difference Vegetation Index)であった。即ち比較的湿潤で植生が豊かな環境下の湧水は湧出し続ける傾向がある一方で、乾燥環境下の湧水は枯渇する傾向が強い。3つの機械学習アプローチのアンサンブルにより、ハンガイ山脈の全湧水のうち22.5%が既に枯渇していることが予測された。永久凍土が連続して分布する地域では、湧水枯渇は主に降水量の減少によって引き起こされている。その一方で、永久凍土が不連続に分布する地域では、比較的湧出し続けているが、これは融点近傍まで昇温した永久凍土に含まれる不凍水によって涵養されている。