日本語要旨

地震発生帯を構成する岩石の弾性的性質と海溝型巨大地震の始まりに必要な最小断層サイズ

地震の発生には、断層のすべりを支配する摩擦特性と、断層の周囲の岩石の弾性的性質の両者が影響する。断層の摩擦特性は実験などから解明されつつあるが、母岩の弾性的性質は地震波観測による間接的な推定がほとんどであり、その実態の理解は乏しかった。本研究では、四万十帯の横浪メランジュ(高知県須崎市)から掘削されたコアである「須崎コア」についてP波速度・S波速度・空隙率・鉱物組成を測定した。須崎コアの岩石は、南海トラフにおける深海掘削では到達できないような深度を経験しており、巨大地震の震源となる「地震発生帯」の情報を残している。そのため、巨大地震の発生を支配する地震発生帯におけるプレート境界断層の母岩の弾性的性質を調べることができる。測定の結果、須崎コアのP波速度は5.1-5.8 km/s、S波速度は3.0-3.3 km/s、空隙率は1.0-2.5%であった。微細構造観察から、沈み込んだ際の圧力溶解や沈殿によって粒子同士が癒着することにより、低い空隙率と高いP波およびS波速度が得られたと考えられる。また、これらのP波速度・S波速度・空隙率の関係は、代表的なアスペクト比が0.01程度の空隙を仮定した際の岩石物理モデルで説明できることを明らかにした。さらに、この岩石物理モデルによって、沈み込み帯浅部から地震発生帯深度までの岩石の空隙率と弾性波速度の関係が説明できる可能性を見出した。加えて、得られた弾性的性質から、地震発生帯において断層が不安定すべりを始めるための最小サイズを計算した。その結果、自己不安定なすべりによって海溝型巨大地震が始まりうる断層サイズは異常間隙水圧を考えても数mほどであることが明らかとなった。この断層のサイズより小さいスケールの岩相や構造の不均質は、地震の始まり方の過程に影響を及ぼし、このサイズより大きいスケールの不均質は、地震の破壊の広がり方に影響を及ぼすことがわかる。今回得られたスケールをもとに、露頭や掘削試料などの地質学的不均質を検討することにより、地震発生プロセスのより詳細な理解につながると期待される。