西南日本日向灘地域における泥ダイアピルの分布とその水文地質学的な意義
- Keywords:
- Mud diapir, Seismic reflection, P-wave velocity, Methane concentration, Ridge subduction
泥火山は、沈み込み帯前弧で一般的に見られる特徴的な海底地形であり、プレート沈み込みに伴う流体循環システムについての重要な知見を提供する。泥火山は世界の沈み込み帯に広く分布しているものの、その空間分布は均一ではなく、支配要因も明確になっていない。また、泥火山内部の物理特性についても十分に理解されていない。本研究では、地震波反射法および地震波屈折法データに基づく高解像度のP波速度モデルを用いて、九州・パラオ海嶺が沈み込む日向灘海域における泥ダイアピル構造の分布と物理特性を調査した。反射法データからは、60以上の泥ダイアピル構造が新たに検出された。その中には海底まで到達して泥火山を形成しているものもあれば、浅部の堆積物に埋もれているものもある。これらの泥ダイアピルは、沈み込むスラブが10〜20 kmの深さにある場所の直上に多く見られ、沈み込む海山の前縁側に集中している。一方、海山の直上およびトラフ軸から約50 km以内には泥ダイアピルは確認されていない。これらの結果から、スラブが10 kmを超える深さに達すると、浮力の大きい炭化水素ガスが熱生成され、上盤プレート内での流体の上昇を引き起こすと考えられる。また、海山の沈み込みにより前縁側が圧縮されることで沈み込む堆積物の脱水が促進されるとともに、上盤プレート内に流体が通りやすい破砕帯構造が形成されることにより、泥ダイアピルが多く発達すると考えられる。日向灘地域で海底面まで到達した泥火山内部のP波速度構造からは、南海トラフ熊野灘地域の泥火山と同程度の量のメタンを含んでいることもわかった。堆積層に埋もれた泥ダイアピル内部では、さらに低い地震波速度(3.0km/s以下のP波速度)が示されており、海底下1〜5 kmの深さに大量の流体および炭化水素ガスが貯留されている可能性がある。これらの観測結果は、日向灘の前弧域にこれまで認識されていた以上に広範かつ大量な流体およびガスが存在する可能性があることを示している。