日本語要旨

全中性大気を対象とするデータ同化システムJAGUAR-DASにより作成した長期再解析JAWARA

地上から高度約110kmに広がる中性大気のうち、中間圏・下部熱圏(高度50~110km)を対象とする研究は、観測や大気モデルにおける技術的困難のため、必要なデータが乏しかった。本研究では、新たに開発した中間圏・下部熱圏も含む全中性大気を対象とするデータ同化システムJAGUAR-DASを用いて2004年9月から2023年12月までの約19年間の長期再解析データセットJAWARAを作成した。JAWARAは世界初の全中性大気長期再解析データであり、中下部中間圏までが対象であった従来の再解析データよりも広い高度範囲をカバーすることが特長である。

JAWARAの基本的な再現性を検証するため2種類の衛星観測データおよび3種類の既存の再解析データと比較した。東西平均気温、東西風の季節変化はともによい一致を示していた。東西平均気温、東西風、残差平均循環、E-Pフラックスのそれぞれの気候値についても、JAWARAと他の再解析データは整合的であった。

さらに、北半球高緯度の残座平均鉛直流の変動に関する解析も行った。夏季には上昇流、冬季には下降流となる、よく知られた季節変化に加えて、冬季成層圏突然昇温イベントの後には下部熱圏に強い下降流偏差が現れ、これが上部成層圏まで下降してくる様子も捉えられた。この解析は下部熱圏もカバーする衛星データでも定量的推定は難しく、JAWARAの利点を生かした応用例である。

JAWARAデータは中間圏における大気現象の解析をはじめ、熱圏・電離圏結合、宇宙天気、中性大気全体を対象とした結合過程の解明などの幅広い分野について理解を進める研究基盤となる。また、このデータを用いて年々変動や10年規模変動の理解を深めることにより、中層大気研究の発展に大きく貢献すると考えられる。今回作成したデータは公開されており、以下のウェブサイトからダウンロードできる。(https://jawara.nipr.ac.jp/