河川大型無脊椎動物群集における統合的栄養位置(integrated Trophic Position: iTP)の時空間変動
- Keywords:
- Biomass, CSIA-AA, Ecological pyramid, Trophic transfer, Operationally defined community
地球表層の物質やエネルギー循環を理解するためには、生態系を通じた栄養転送の推定が重要であるが、これは簡単なことではない。この問題に取り組むためには、ある食物網(生物同士の食べる・食べられる関係をつないだネットワーク)において、すべての生物の栄養位置(Trophic Position: TP)とバイオマスを加重平均して得られる、統合的栄養位置(integrated TP: iTP)が有効である。なぜならば、iTPは生態ピラミッドの形状を表すからである。本研究は、河川大型無脊椎動物群集のiTPの時空間的な変動を明らかにし、得られた結果を先行研究の結果と比較することで、iTPの生態系指標としての有効性を示すことを目的とした。そのために、琵琶湖集水域における安曇川と野洲川において採集された大型無脊椎動物群集のアミノ酸(グルタミン酸:Gluとフェニルアラニン:Phe)の窒素安定同位体比(δ15N)を測定し、それらからiTPを推定した。その結果、先行研究と異なり、iTPと生物多様性を含む生態環境要因との間に明確な関係性は見られなかった。その一方、野洲川の灌漑期と非灌漑期を比べた結果、iTPの減少が生物多様性の増加によっておおむね説明できた。本研究の結果は、生物多様性がiTPに与える影響だけに着目していた先行研究とは異なり、iTPによって生態系の新しい側面が見出されている可能性を示す。さらに、河川の大型無脊椎動物群集、海洋の中型動物プランクトン群集、そして複数の分類群を含む動物群集の間にiTPの有意差がなかったことから、iTPが生態系の違いを問わず、エネルギー転送を推定するのに有効であることが示唆された。結論として、今後、水域、陸域を問わずさまざまな生態系でiTPの方法論を用いた研究を展開していくことが重要と考えられた。