スラブとその周辺マントルのダイナミクスへの水の役割
- Keywords:
- 水分配、名目上無水鉱物、高密度含水マグネシウムケイ酸塩、脱水、スラブ、流体、地震波散乱体、稍新発地震、深発地震
水はさまざまな含水鉱物に含まれ、スラブの沈み込みによってマントル深部まで運ばれる。蛇紋石は地殻および上部マントル浅部における最も重要な含水鉱物の一つである。沈み込むスラブの蛇紋岩化の程度は、マントル深部に運ばれる水の量を制約している。含水鉱物と名目上無水鉱物(Nominally Anhydrous Mineral, MAM)の間での水の分配は、スラブの物理的性質やダイナミクスを制御する重要な要因である。水の分配に関する最近の実験によると、水に飽和していない湿ったスラブにおいては、水は含水鉱物に強く分配され、これと共存するカンラン石やその高圧多形のような名目上無水鉱物(NAM)は、含水量が限られほぼ無水の状態になっている。無水のカンラン石は、スラブの低温条件では相転移の速度が遅く、高圧相が安定な条件でも準安定に存在する。このことから、スラブ内部にみられる準安定なカンラン石からなるくさび領域(Metastable olivine wedge)は、湿ったスラブにも存在し、決してスラブが乾燥しているという証拠ではない。すなわち、無水のカンラン石の相転移は、深発地震を引き起こし、スラブ内で大きな変形をもたらすが、これらの過程は湿ったスラブでも生じるのである。含水鉱物に結びついた水は、スラブによってマントル遷移層や下部マントルへと運ばれる。660 kmより深い位置で滞留するスラブ中の含水鉱物は、スラブが加熱される過程で水を放出し、局所的に水和したマントル遷移層を作り出し、上部マントルとマントル遷移層の境界部に高密度の含水マグマを生成する。高温の領域はさらに上昇し、プレート内部の火山活動も引き起こす。
下部マントルの深さ700~1900kmの領域には、地震波の散乱体や反射体が観測されている。これらの散乱体や反射体は、下部マントルの上部で、高密度含水マグネシウムケイ酸塩(DHMS)のような含水鉱物が分解し、水を放出することにより引き起こされる可能性がある。また、アルミニウムと水を含むSiO2がスティショバイトからCaCl2型相への二次相転移を起こす際のせん断不安定性も、原因になっている可能性がある。下部マントルに存在するアルミニウムを含むSiO2の高圧多形は、1重量%以上の大量の水を含み、下部マントルの重要な水の輸送物質となっている可能性がある。