日本語要旨

炭素酸化物の放射冷却による初期地球富水素大気における流体力学的散逸の抑制

分子放射冷却は,X線ならびに紫外線恒星放射の吸収に伴う大気加熱エネルギーを取り除く効果があるため,流体力学的散逸において重要な役割を果たす.COやCO2等の炭素酸化物とその光化学生成物は,炭素酸化物主体大気のみならず富水素大気においても重要な放射冷却源となると予想される.一方で,特に富水素大気の流体力学的散逸に対する,この放射冷却の具体的な影響については十分に検討されてこなかった.本研究では地球質量惑星を対象に,CO,CO2,及びそれらの化学生成物を含む富水素大気の1次元流体力学的散逸計算を実施した.モデルでは炭素酸化物に関連する詳細な放射冷却過程と化学反応ネットワークを考慮し,放射冷却が大気散逸に与える影響を調べた.数値計算の結果,流出大気中ではCO2は急速に光分解されCOや酸素原子が生成される一方で,COはCO2と比較し光化学的に安定であることが示された.酸素原子によるH2の酸化によりOHやH2Oが生成される.その結果,CO,H2O,OH,H3+ による放射冷却効果により,COとCO2の体積混合比が約1%以下の場合でも流体力学的散逸は大幅に抑制されることが明らかとなった.これにより純粋水素大気の場合と比較して富水素大気の寿命は約1桁延び,炭素種や窒素種,希ガス等の重分子の散逸はほぼ無視できるレベルまで抑制される.