日本語要旨

南太平洋亜南極域チリ沖における過去14万年間のオービタルスケールの炭酸カルシウム埋没/溶解変動

氷期の南大洋深海底における炭酸カルシウム(CaCO3)の溶解は、海洋アルカリ度を上昇させることで大気中二酸化炭素濃度の低下に寄与したと考えられる。本研究では、南太平洋亜南極域チリ沖で採取された2本の堆積物コア試料から、海洋酸素同位体ステージ(MIS)6以降の過去14万年間をカバーする新たなCaCO3の埋没・溶解記録を報告する。これらの記録には、CaCO3の含有量(質量%)および沈積流量(g cm−2 kyr−1)、浮遊性有孔虫殻の破片率および重量(µg)、そして浮遊性有孔虫殻の微細構造が含まれる。バルクCaCO3と浮遊性有孔虫の殻重量分析から、MIS 5dと5b、ならびにMIS 5/4境界において3回の顕著なCaCO3溶解イベントを見出した。これらのCaCO3溶解イベントは、南緯46度のチリ沖から南緯58度のドレーク海峡まで南北1000 km以上にわたり追跡可能であった。さらに、大半のCaCO3埋没は間氷期(MIS 5eおよび1)および最終氷期初期(MIS 5d–a)に起こり、氷期(MIS 6、4、3、2)にはほとんど埋没しなかった。このパターンは、南大西洋のケープ海盆深部(>4600m)を除く南大洋で広く見つかっている。本研究地点がドレーク海峡の上流に位置することを考慮すると、氷期に炭素に富む太平洋深層水の影響を受けた周極深層水が少なくとも水深3000–4000 mの範囲で南太平洋亜南極域から南大西洋へと広がり、CaCO3溶解を引き起こしたことを示唆する。これらの結果は、氷期-間氷期スケールの炭素循環における南大洋の炭酸塩補償の重要性を支持するものである。