日本語要旨

反平面地殻変動における断層形状不変性:物理情報深層学習による一括解法

横ずれ断層による地殻変動を記述する反平面ディスロケーション・モデルにおいて、地殻変動が断層端部の位置で本質的に決まり、断層面の形状に依存しないという「断層形状不変性」と呼ばれる性質が、一般の地下構造において成立することを導出した。古典力学における保存力とポテンシャル・エネルギーの関係に着想を得て、基準点と任意の点を結ぶ線形断層上の単位すべりが生起する変位場を「ディスロケーション・ポテンシャル」と定義すると、任意の断層形状およびすべり分布に対する地殻変動を、この物理量から算出できることを示した。これにより、断層形状に依存する無限次元問題を、断層端点のみに依存する有限次元問題に帰着させることができる。この理論と物理法則を組み込んだ深層学習モデル(Physics-Informed Neural Network: PINN)を組み合わせることにより、効率的な地殻変動の解析手法を構築した。PINNは解を連続関数により表現し、複雑な地形・不均質構造を持つ地下構造において解析でき、物理パラメータを入力変数に追加できるなど高い拡張性を持つため、本研究の目的に適している。具体的には、与えられた地下構造においてディスロケーション・ポテンシャルを一度訓練しておけば、任意の断層形状・すべり分布に対する地殻変動を高速計算することができる。これにより複雑な地下構造における逆解析や不確実性評価を効率的に実施できる。本研究で展開した断層形状不変性の理論は反平面地殻変動における普遍的性質のため、PINNに限らず一般の解析手法において活用が期待される。