日本語要旨

日本の主要樹木のイソプレンとモノテルペンの基礎放出速度:種間及び種内の変動

日本の森林から、その放出が制御できない自然起源のテルペン類が、都市やその近郊で観測される高いオゾン濃度に寄与してきたかもしれない。大気化学モデルを用いてNOxとテルペン類との一連の反応によるオゾン生成を推定するため、日本の主要樹木について報告されたテルペン類放出の全データを収集し、その信頼性を検討することによって、テルペン類放出インベントリを作成することが重要である。このレビューでは、最初に植物の3つの異なるテルペン類放出タイプについて述べる。つまり、イソプレン放出タイプ、貯蔵組織を持つモノテルペン放出タイプおよび貯蔵組織を持たないモノテルペン放出タイプである。次に、最近開発された簡易法を含む、植物のテルペン類放出を測定する様々な方法について記述し、それらの信頼性について説明する。ここでは、テルペン類放出タイプによって、適用できる測定方法が異なることを強調する。閉鎖チャンバー法によって得られたデータは、テルペン類の測定に不適な通常のチャンバー素材の使用や湿度制御がなされていないことによる高い不確実性のため、インベントリ用データとして妥当でないと判断する。最後に、収集した放出データの絶対値を示し、種間差や種内の差異について述べる。落葉コナラ属であるコナラやミズナラ、タケ類のモウソウチクやマダケは、大量のイソプレンを放出する。モノテルペン放出種の中では、コナラ属などの常緑広葉樹が高い基礎放出速度(BER)を示す。モノテルペン貯蔵タイプであるカラマツやアカマツのBERは比較的低い。森林の優占樹種上位20位までの中でツブラジイのBERに関する文献データはなく、放出速度の季節変化については数種で未報告である。同じ種においても、報告された放出速度は文献によって3倍程度異なる。この差異は、測定法や分析システムの信頼性や樹齢、葉の形態、環境条件および遺伝的多様性によるものであろう。日本の主要樹木種に関して、より高精度のテルペン類放出インベントリを作成するためには、信頼できる測定法の採用が必要であることを強調する。