日本語要旨

クック諸島アイツタキ島産の“ザクロ石”を含むレールゾライト捕獲岩から探る海洋域小スケール対流の証拠

海洋域マントル由来のザクロ石カンラン岩捕獲岩の報告は、非常に限られている。しかし、その岩石学的・地球化学的特徴から、海洋リソスフェア-アセノスフェア相互作用の結果としてのマントルダイナミクスに関する貴重な情報を抽出することが可能である。本研究では、クック-オーストラル火山列に属するアイツタキ島のカンラン石ネフェリナイト溶岩に産出するレールゾライト捕獲岩を岩石学的・地球化学的に解析した。そのレールゾライト捕獲岩は、赤みがかった細粒鉱物集合体(サイズは5μm以下) を含んでおり、カンラン石、カルシウム質およびナトリウム質の斜長石、アルミナススピネル、自然鉄、およびネフェリンで構成されていた。微細構造観察と化学組成データから、細粒鉱物集合体は中心に不規則な形状のクロミアンスピネルを含むパイロープに富むザクロ石であったと考えられた。また、細粒鉱物集合体の周りは、輝石に乏しく、カンラン石に富むということが確認された。以上の細粒鉱物集合体とクロミアンスピネル、その縁辺部の空間・形状関係は、アルミナススピネル + 輝石 → パイロープに富むザクロ石 + カンラン石という反応を示唆しており、それを駆動するためには圧力上昇=下降運動が必要であることが示唆された。一方で、直方輝石粒子は、粒子中心から縁に向かってわずかではあるがAl、Ca、Crが増加する化学帯状構造が確認された。その化学組成変化は、温度-圧力変化に応答して鉱物が化学的平衡を保つために連続的に起こったものであり、元素拡散モデリングを適用することで、0.24〜0.6 cm/年の圧力減少=上昇運動速度を推定した。そして、レールゾライト捕獲岩がマグマによってアイツタキ島に運ばれる途中で、急激な圧力減少を経験することにより細粒鉱物集合体に分解してしまったというシナリオを描いた。以上の圧力上昇と下降の履歴推定から、アイツタキ島の下のアセノスフェリックマントルでは小スケール対流が起こっていると推察した。