ナイニタール(インド)およびコミラ(バングラデシュ)の観測データがメタン収支推定に与える影響の評価
- Keywords:
- Methane, Inverse modeling, South Asia, Indo-Gangetic plain
世界的にみて主要なメタンの排出源である南アジアのメタン排出についての理解は、観測データが不足しているため、十分に進んでいない。本論文では、NOAA、CSIRO、AGAGEによるバックグラウンド濃度の地上フラスコ観測データに加えて、インドのナイニタール(NTL)とバングラデシュのコミラ(CLA)で毎週採取された大気サンプルの観測データを用いた場合の、逆解析手法によるメタン収支推定の結果を報告する。本研究では、おもにNTLとCLAの両方の観測データが利用可能な2013年から2020年について解析を行った。NTLとCLAの観測データを用いることにより、フラックス推定の不確かさが最大40%(おもにインド亜大陸北部において)削減され、フラックス推定の信頼性が高くなり、NTLとCLAにおける観測の重要性が再確認された。本研��で推定された2013年から2020年の南アジアの領域フラックスは、64.0±4.7 Tg-CH4 yr-1であった。本研究では、稲田と湿地からのメタン排出が異なる2つの先験フラックスの組み合わせを検討した。これらの先験フラックスに見られた排出量の差は、逆推定による事後フラックスでは農業、石油、天然ガス、廃棄物セクターからのメタン排出量が調整されることにより顕著に減少したが、湿地帯のメタン排出量は不一致(約8 Tg-CH4 yr-1)のままであった。また、NTL/CLAの観測データを逆推定に利用することにより、メタンの年間総排出量に加えてフラックスの季節サイクルも修正された。先験フラックスでは8月に一山ピークであったが、事後フラックスでは5月と9月の二山ピークになっていた。これらのピークは、夏期栽培のための圃場準備や出穂期(幼穂形成期)の水田からのメタン排出に関連している可能性が高い。今回、新たに組み入れられた2つの観測サイトは、おもにインド・ガンジス平野のサブ領域のメタン排出に対して感度があることがわかったが、インド南部の観測サイトは依然として不足しているため、後方流跡線解析によるフットプリント評価をもとに観測サイトの候補地を慎重に精査する必要がある。