日本語要旨

チベット高原の雷雲に由来する高エネルギー放射線バーストの時間変動の特徴

地上や高山における雷雲から高エネルギー放射線(長時間バースト)が観測されており、その生成メカニズムを解き明かす研究が国内外で進んでいる。長時間バーストは雷雲のなかの電場により高エネルギーに加速された電子が、制動放射で放っていると考えられている。しかし、高度の違うさまざまな地点で観測された長時間バーストは異なる時間特性を持っており、その差異がどのような原因で生じているのかは不明である。加えて、長時間バーストのもととなる加速電子の種は、宇宙線であるという仮説がある。宇宙線強度は約11年周期の太陽活動と逆相関の関係があるため、長時間バーストの生成に太陽活動が関連している可能性もある。こうした宇宙線あるいは太陽活動の変動と長時間バーストとの関連については、長期間にわたるデータが不足しているため、よく理解されていない。そこで本研究では、高度4300 mのチベット高原で1998年から稼働している宇宙線観測装置のデータを利用し、長時間バーストの発生頻度の日変動、季節変動、年変動を導出した。これらの導出によって、長時間バーストがどのような気象の影響を受けているのか、また太陽活動の影響があるのかどうかを検証した。

チベット高原の宇宙線観測装置では2017年までに127例の長時間バーストを検出した。これらの事例の95%は10分から40分ほど継続しており、北陸地域で観測される数分ほど継続する長時間バーストに比べて長く続くことが分かった。また、雷や降雨の発生日時の比較から、雨季の時期である5月−9月に長時間バーストが頻発することが分かった。北陸地域の雷雲の寿命は厳冬期には数分であるが、チベット高山の夏の雷雲の寿命は30−60分とされている。こうした雷雲の寿命の差異が放射線の継続時間の違いの原因と考えられる。さらに、日変動や季節変動に加えて、図に示すように観測された雷雲放射線の年ごとの発生頻度が16.4±1.7年の周期変動でよく再現できることが分かった。両者の比較から、長時間バーストの発生は太陽活動の影響を受けている可能性が示唆された。