日本語要旨

最近発生した日向灘の大規模長期的スロースリップイベントの検出とその時空間滑り分布の推定

九州南東部の国土地理院のGNSS時系列データの水平および垂直変位を用いて、日向灘地域で最近発生した長期的スロースリップイベント(SSE)を検出し、その時空間滑り分布を推定した。水平変位のS/N比が1.0以上となるように0.8 年の最短の時間窓を設定し、滑りの時間変化を求めた。その結果、2018.5年~2019.3年の期間、宮崎県中部下のプレート境界で2 cm以上の滑りが発生したことが分かった(単位は0.1年= 36.5日)。その後、2019.3年~2020.1年には、宮崎県南部下のプレート境界で滑り量が若干増加・拡大し、その後の期間(2020.1年〜2020.9年)には滑り量が最大3.9 cmに達した。さらにその後の0.8年の間(2020.9年〜2021.7年)には、ほぼ同じ場所でより小さな滑りが発生し、2021.7年以降は、滑りは検出されなかった。したがって、長期的SSEの発生期間は2018.5年~2021.7年の約3.2年間と推定された。年平均最大滑り速度は2020.1年~2020.9年の期間にみられ、約4.9 cm/年 (3.9 cm/0.8 年) と求まった。最大総滑り量は約12.9 cm、解放されたモーメントは 4.9 × 1019 Nm、Mwは7.1 と推定された。今回の長期的SSEを日向灘地域で発生したこれまでの長期的SSEと比較すると、年平均最大滑り速度は比較的小さく、主な滑りはプレート境界のほぼ同じ位置で検出された。一方、今回の長期的SSEの滑りの継続時間は最も長く、解放されたモーメントとMwは最大となった。本研究で推定された日向灘長期的SSEの約10 cm以上の総すべり域は、深さ約30〜40 kmの範囲で、1996年12月3日の日向灘地震の余効滑り域とほぼ重なっていた。短期的SSEも同じ深さ範囲で発生している。これら3者のプレート間地震イベントが同じ深さ範囲で発生している原因として、そのプレート境界面上での沈み込み方向の大きな温度勾配が考えられる。大きな温度勾配は、プレート境界での摩擦パラメータ(a-b)の深さ範囲を狭めるという重要な役割を果たす。マントルウェッジコーナー(MWC)部と沈み込んだ九州―パラオ海嶺の外縁部の両方がプレート境界の深さ約30 kmに位置していることともあいまって、間隙水圧と法線応力も滑りをコントロールする臨界スティッフネスと密接に関係している。MWCのプレート境界の浅部側と深部側の間隙水圧と法線応力の対照的な値も、3種類の非地震性滑りが同じ深さ範囲で発生することに寄与している可能性がある。