1995年から1997年におけるアムール川の急激な溶存鉄濃度上昇に対する永久凍土融解の影響
- Keywords:
- Amur river, Dissolved iron, Permafrost, Climate change, Pacific decadal oscillation
オホーツク海における生物生産はアムール川が輸送する溶存鉄(dFe)によって維持されており、これは陸域からのdFe流出が重要であることを意味する。しかしながら、アムール川へのdFe流出メカニズムは不明な点が多く、特に長期のdFe濃度変化の原因はほとんど分かっていない。アムール川では1995年から1997年にかけて非常に高いdFe濃度が観測されており、その原因は依然として不明である。この原因として、本研究では永久凍土融解の可能性を検討した。永久凍土融解とdFe濃度の長期変動との関連性を明らかにするため、アムール川流域を3つの地域(北東、南、北西)に分け、1960年から2006年にかけての年平均気温(Ta)、積算暖度(AT)、および正味降水量の変化を調べた。その結果、TaとATは数年に1 回の頻度で比較的高い値を示し、特に1988年から1990年にかけて継続的に高い値を示した。夏季後半(7月-9月)の正味降水量は流域全体で1977年以降増加傾向にあり、2006年まで正の値を維持した。さらに重要な結果として、Taと夏季後半のdFe濃度の間には7年ラグを伴う有意な相関関係があることを発見した(r = 0.54–0.69, p < 0.01)。これはTaが高い年の7年後の夏季後半にアムール川のdFe濃度が増加する傾向にあることを意味する。この相関係数は、永久凍土が最も分布するアムール北東部で最も大きかった。また同様の7年ラグ相関は、アムール北東部のATと夏季後半のdFe濃度の間にも見出された(r = 0.51、p < 0.01)。これらの結果に基づき、1995年から1997年にかけてのアムール川dFe濃度上昇の原因として次の仮説を提唱する。(1)アムール川流域では1977年以降の正味降水量の増加し、湿潤化した土壌中はdFe生成により適した還元環境となった。(2)1988年から1990年にかけて温暖な年が続き永久凍土が融解することで、活性層深層では生物利用可能な鉄が増え大量にdFeが生成された。(3)生成された大量のdFeがアムール川に至るまでに約7年かかり、1995年から1997年にかけてのdFe濃度上昇につながった。本研究は、アムール川流域の鉄循環に対してラグを伴う永久凍土融解の影響を示唆する初の研究である。