飛騨帯産ドロマイト質大理石に含まれるかんらん石中流体包有物内におけるメタンの生成
- Keywords:
- Dolomitic marble, Fluid inclusion, Olivine, Abiotic methane synthesis, Hida Belt
メタン(CH4)をはじめとした炭化水素の非生物的な合成は地球の生物圏および固体地球の双方の進化に大きく寄与してきたと考えられている。とりわけ超苦鉄質岩の加水作用、すなわち蛇紋岩化は無機的なメタンを生成する地質学的な過程として広く知られている。しかし、非生物的なメタンの生成は苦鉄質岩や超苦鉄質岩における蛇紋岩化に限られない。本研究では堆積岩起源のドロマイト質大理石に着目し、大理石に含まれる変成かんらん石の蛇紋石化に伴うメタン生成を見出した。飛騨変成帯に産するドロマイト質大理石はMgに富むかんらん石(Fo~89–93)を含むことにより特徴づけられ、かんらん石は多数の流体包有物を含む。かんらん石中流体包有物に対する顕微ラマン分光分析から、メタン、蛇紋石(リザダイト、クリソタイル)、ブルース石が包有物に普遍的に含まれることが明らかになった。蛇紋石やブルース石といった含水鉱物の存在から、かんらん石に捕獲された流体は初生的にはH2Oを含んでおり、捕獲後にホスト鉱物であるかんらん石と反応することにより、蛇紋石やブルース石が形成したと考えられる。こうした包有物内部における蛇紋石化に伴って発生した水素(H2)によって、変成脱炭酸反応や炭酸塩鉱物の水流体への溶解に由来するCO2が還元され、メタンが生成したと考えられる。本研究での観察から、ドロマイト質大理石が造山帯の地殻浅部における無機的なメタンの生成および貯蔵における重要な岩相となっている可能性が示唆される。