日本語要旨

常時微動マルチモード表面波トモグラフィー

地球の内部構造を推定するためには、地震によって励起された地震波を利用した探査手法が有効である。しかし、その空間分解能は、地震の発生分布に制約される。近年これらの制約を改善するために、地震以外の現象により励起される地震波動場すなわち常時微動が利用され始めている。典型的な常時微動として、海洋の波浪活動により励起される脈動が知られている。本論文では、常時微動を用いた地球内部構造の探査手法として、常時微動面波トモグラフィーを解説する。

常時微動表面波トモグラフィーは地震波解析の一手法である地震干渉法に基づく。具体的には、2観測点で観測された地震波形記録の相互相関関数を計算することによって、観測点間を伝播する地震波を抽出する。計算された相互相関関数は、一方の観測点を仮想的な震源とみなした場合の他方の観測点での撃力応答として解釈できる。この手法は、2010年代以降、高密度地震観測網の発達とともに標準的な解析手法となった。

本論文では、まず地震干渉法の理論を概観する。続いて、常時微動表面波トモグラフィーを観測データに適用するために、相互相関関数を計算する実用的なデータ処理手順を解説する(解析手法の理解のため、簡単なPythonコードも併せて公開した)。トモグラフィー手法は、一般に、(1) 基準1次元モデルの構築、(2) 各波線経路の位相速度異常測定、(3) 2次元位相速度インバージョン、(4) 各地表点において、測定された分散曲線から直下の1次元構造を推定し、3次元S波速度トモグラフィーモデルを構築、という4段階から成る(図参照)。本論文では、深さ方向の分解能向上のための多モード表面波分散曲線測定の実現可能性を示す。また、常時微動面波トモグラフィーの適用条件や、その推定誤差要因についても包括的に議論する。