北海道ペケレベツ川における大量アンサンブル降雨データを用いた流出土砂量への影響評価
- Keywords:
- Climate change, Sediment discharge, Large-ensemble data, Temporal rainfall pattern, Slope failure, Channel erosion, Spatial resolution of climate change projections
気候変動により雨の規模,頻度,降り方の変化が予想されている.降雨量の増加は,上流域から流出する土砂量を増加させ,下流の河床形態や流路変動に影響を及ぼす.そこで,本研究では北海道のペケレベツ川上流部を対象に,気候変動による流出土砂量の変化を評価した.
はじめに,気候変動前後の降雨パターン変化を把握するために,降雨量予測データ(d4PDF)のクラスター分析を行った.ここで,d4PDFは気候変動予測データの一種であり,過去実験3000年分,4℃上昇実験5400年分の解析値を有するため,発生頻度の低い極端現象の評価に適している.また,d4PDFは20km解像度で公開されているが,北海道周辺は5km解像度にダウンスケーリングされたデータがあり,山地豪雨も精度良く表現されている.次に,気候変動前後の降雨量と流出土砂量の変化を確率年ごとに比較した.流出土砂量の予測には,斜面崩壊によって生産される土砂と河道内の土砂の堆積・輸送を評価可能な物理ベースモデルSHiMHiSを用いた. 最後に,降雨量の空間解像度が流出土砂量に与える影響を調べるため,20km解像度と5km解像度の降雨解析値を与えた場合の流出土砂量の比較を行った.
分析の結果,気候変動後は短期的な豪雨が増加する傾向にあった.また,気候変動前後を比べると,10年に一度の降雨量は1.6倍増加するのに対し,流出土砂量は5.5倍増加した.降雨量の変化率よりも流出土砂量の変化率が大きい要因として,短期豪雨の増加に伴い,斜面崩壊による細粒土砂の供給が増加し,これが河道の粗粒化を抑制することで,流出土砂量を大幅に増加させたと考えられる.さらに,20km解像度の降雨解析値を用いて計算された土砂流出量は,5km解像度の場合よりもほぼ1桁小さかった.このことは,20km解像度の気候予測は山地における地形性豪雨を適切に表現しておらず,極端な土砂流出現象を適切に再現できないことを示唆している.