日本語要旨

沈み込み帯インプットとしての太平洋プレートの実像 ~ 海洋プレートの進化と不均質

日本列島のようなプレート沈み込み帯では、島弧(大陸プレート)と海洋プレートの衝突に伴い巨大地震からスロー地震まで多様な地震が発生している他、海洋プレートが含水鉱物として深部に輸送する水によって生成されるマグマが島弧火山活動を惹起するなど、さまざまな地殻変動現象が発生している。

沈み込み帯へのインプットである海洋プレートの性質(形状、温度構造、物性、含水率など)は、み込み帯における地殻変動現象の発生と密接に関係しているはずだが、従来、一般に海洋プレートは均質性が高いと考えられてきたこともあり、沈み込み帯へのインプットである海洋プレートの実態にはあまり関心が払われてこなかった。転機となったのは、沈み込む直前に海洋プレートが急激に折れ曲がる際に形成される正断層(アウターライズ断層)によって海洋プレート内に水が取り込まれる可能性が指摘され始めたことである。21世紀初頭に開始された中南米の比較的若いプレートが沈み込む場所で始まったアウターライズ断層付近における先行研究に続き、我々は2009年から非常に古いプレートが千島海溝と日本海溝から沈み込む北西太平洋海域において、沈み込み帯インプットの広域な実態把握を目指した大規模構造探査観測研究に着手した(左図)。その結果、沈み込む直前のアウターライズ断層により海洋プレートが変質し含水化が進んでいる可能性が高いこと、また千島海溝よりも日本海溝の方が顕著に変質していること、その違いはプレート形成時の海嶺の走向と現在の海溝の走向によって説明できることなどが分かってきた。さらに、日本海溝域ではプレート形成時の古傷付近やプチスポットと呼ばれる海洋プレート上の若い火山が密集している海域などでは地下構造が大きく乱されていることや、海洋地殻の厚さも顕著な地域性を持っていること(右図)などが明らかになった。さらに、それらの海洋プレートの構造不均質が沈み込み後の巨大地震やスロー地震の分布と興味深い相関を示すことも分かってきた。

これらの成果は、沈み込み帯で発生するさまざまな変動現象の理解には、沈み込み帯インプットの実態把握も重要であることを改めて示すものである。