日本語要旨

稠密反射法探査によって見えてきた日本海溝に沈み込むプレートの詳細構造

沈み込み帯へ持ち込まれる海洋プレートの構造(インプット構造)は、沈み込み帯で発生する地震の大きさや滑り様式に関係があると考えられている。日本海溝沈み込み帯では2011年東北地方太平洋沖地震(以下、東北地震)を含む多くのプレート境界型地震が発生してきた。また近年、超低周波地震や微動、スロースリップなどの観測も報告されている。我々は東北地震発生以降、日本海溝の海溝軸近傍で稠密測線による高分解能反射法地震探査を実施し、鹿島海山から襟裳海山付近までのほぼ日本海溝全域をカバーする測線でのデータを取得した。100本以上の反射断面の解釈を基に海溝軸近傍のインプット構造をマッピングし、インプット構造と東北地震滑り域や微動・超低周波地震発生域との間の対応関係を調べた。沈み込むプレート上の堆積層の厚さは、東北地震の大滑り域では350mより薄い。一方、東北地震の大滑り域の外側に沈み込む堆積層は厚く、そこでは微動や超低周波地震が発生している。また、沈み込む堆積層の厚さが見かけ上非常に薄く、海洋プレートの基盤の起伏が激しい場所は微動や超低周波地震発生域に対応している。太平洋プレート上には折れ曲がり正断層が発達しているが、特に日本海溝北部・南部では東傾斜の正断層が顕著に見られ、これによって作られる地溝には充填堆積物がよく見られる。こうして厚くなった堆積物の沈み込みは、微動や超低周波地震を起こしやすい状況の一つの要因になっているかもしれない。以上のように、日本海溝沈み込み帯で発生する巨大地震の滑り域やゆっくり地震発生域と、太平洋プレート上の堆積層の厚さや折れ曲がり断層、基盤の起伏、地溝・海溝充填堆積物の分布、正断層の分布などのインプット構造の不均質性との間には一定の対応があることがわかったが、その対応は単純ではなく、今後更なる調査・研究が必要である。