東北沖超巨大地震発生サイクルとそれに伴う地殻変動のモデル化における進展
- Keywords:
- 2011年東北沖地震、数値モデル、海溝型巨大地震発生サイクル、階層アスペリティモデル、動的弱化、余効変動、粘弾性緩和、余効すべり、長期的垂直変動
本論文は、2011年東北沖地震に関して、超巨大地震発生サイクルとそれに伴う地殻変動のモデル化について10年間の研究成果をまとめたものである。
東北日本沈み込み帯で、何故、超巨大地震がおよそ600年間隔で発生するのか、何故、沈み込み帯浅部で巨大すべりが生じたのかを解明するために、幾つかの地震発生サイクルモデルが提案されてきた。具体的には、すべり速度状態依存摩擦則を用いたモデル化が行われてきたが、浅部で強いアスペリティを設けるモデルや 、臨界変位量のスケール依存性を考慮した階層アスペリティモデル(M7クラスの地震は小さな臨界変位量、M9クラスの地震は大きな臨界変位量を有するモデル)が提案されてきた。また、高すべり速度での断層の動的弱化を考慮したモデル化も提案された。さらに、東北地方太平洋沖地震調査掘削(JFAST)で得られた浅部断層摩擦特性を用いたモデルでは、深部からの破壊が海溝まで伝播し、浅部で大きなすべりが起こり得ることが示された。
東北沖地震に伴う地殻変動では、内陸地殻変動の稠密な観測に加え、海底地殻変動が初めて観測された。余効変動のモデル化では、海溝近傍の海底地殻変動の観測から、海溝周辺の短期余効変動において粘弾性緩和が重要な役割を果たしていることが示された。また、余効変動における粘弾性緩和過程に関して、海洋リソスフェアとアセノスフェア境界の低粘性領域と冷たい前弧マントルウェッジ(コールドノーズ)の影響について議論されてきた。さらに、ひずみ速度が応力のべき乗に比例するマントルの岩石の非線形流動則とプレート境界における断層摩擦則を用いた余効変動のシミュレーションにより、東北沖地震が大きな応力変動を引き起こし、その結果、海洋リソスフェアの下のアセノスフェアで急激な粘性低下と流動が生じることが示された。
東北沖地震発生前の地殻変動に関しては、東北沖地震発生サイクルに伴う地殻変動のシミュレーションから、地震サイクルの後半になると、プレート境界深部ですべり欠損率が増加するため、太平洋沿岸域が沈降し始めることが示された。この結果は、東北沖地震の約100年前から観測された東北地方太平洋沿岸の沈降を説明するものである。
今後、東北沖地震発生サイクル全体における長期的な地殻・マントルの変形過程を再現するモデルを構築する必要がある。