衝撃を受けた隕石中における細粒ブリッジマナイトの非晶質化カイネティクス
- Keywords:
- Bridgmanite, High pressure, Shocked meteorite, Amorphization kinetics
隕石を構成する鉱物として、超高圧下で熱力学的に安定な鉱物(高圧鉱物)が見つかることがある。これは天体衝突時の衝撃により瞬間的に高い温度圧力が生じるためである。しかしながら、このような高い圧力状態は、天体衝突後数秒以内に解消される。生成された高圧鉱物は、圧力解放後に残る温度(残留温度)により非晶質化する。Nishi et al. (2022) は、天体衝突前後の温度圧力履歴を解明するための新しい指標として、隕石中に残存するブリッジマナイトに着目し、ブリッジマナイトが非晶質化する速度とその温度依存性を決定した。その結果、非晶質化に伴う応力上昇が非晶質化の進行を阻害することが明らかとなった。本研究では、同様の実験をより細粒の多結晶体を用いて実施し、実際の隕石で起こる非晶質化現象への適用を試みた。出発試料のブリッジマナイト細粒多結晶体は、円柱状に加工したMgSiO3組成のガラスをマルチアンビル装置を用いて25万気圧,1,700 Kで維持し合成した。時分割X線回折測定は、大型放射光施設SPring-8のBL02B2で行った。温度上昇に伴うブリッジマナイトの格子体積の変化率(熱膨張率)は、400 K前後で著しく減少した。このことは、この温度で開始するブリッジマナイトの部分的な非晶質化に起因する体積変化により、ブリッジマナイト粒子に圧力が発生したことを示唆する。ブリッジマナイトの圧縮率から算出した圧力は温度とともに上昇し、750 Kではおよそ1万気圧に達した。また、非晶質化により発生する圧力による非晶質化の進行の阻害が再確認された。非晶質化メカニズムの違いにより、非晶質化開始温度は粒径に依存して変化した。高圧鉱物の非晶質化現象の理解により、天体・隕石衝突イベントの一連の温度圧力履歴を制約する新しい手法が確立されることが期待される。