沖縄諸島と宮古諸島(琉球列島)の間に存在した陸域の地史と,それが両諸島に分布する陸上生物の生物系統地理の解明に果たす重要性
- Keywords:
- Ryukyu Islands, Kerama gap, Okinawa–Miyako submarine plateau, Pleistocene, Shimajiri Group, Ryukyu Group, Vertebrate, Phylogeography, OMSP hypothesis
琉球列島南西部に位置する宮古島と隣接する島々(宮古諸島)の現世および後期更新世の陸上動物相には,沖縄本島と隣接する島々(沖縄諸島)に最近縁な分類群や個体群が分布する固有種や遺伝的に特異な個体群が含まれている.後者の分類群や個体群には渡海能力が極めて限定的な系統が含まれていること,宮古諸島と沖縄諸島は現在少なくとも300 kmも海で隔てられていることを考慮すると,沖縄諸島と最近縁な分類群や個体群を含むという系統地理学的パターンが形成されたことは不可解である.本研究では,宮古諸島,沖縄本島南部,沖縄-宮古海台(Okinawa-Miyako Submarine Platform, OMSP),およびOMSPと沖縄本島の間にある凹地である慶良間ギャップの後期新生代の地質について概説する.次に,宮古諸島の現世および後期更新世の陸上動物(多数の飛翔能力を欠く脊椎動物を含む)の起源について考察する.最後に,宮古諸島の現代および後期更新世陸生脊椎動物相の謎に満ちた組成を説明する新しい仮説(OMSP仮説)を提案する.本仮説の概要は,以下のようにまとめられる.沖縄島南部は約2 Ma後に隆起して陸域となり,同所よりも早く陸域となっていたOMSPと一時的に連結し,沖縄島から宮古諸島まで北東-南西方向に約400 kmにも及ぶの大きな島が形成された.その後,1.7–1.4 Maにサンゴ礁や礁前縁〜陸棚で形成された堆積物からなる第四系琉球層群が沖縄島周辺に堆積し始めると,沖縄島はOMSPから隔離された.2.0 Maから1.7–1.4 Maの間に,飛翔能力を欠く脊椎動物を含む多くの陸上動物がOMSPに分布を広げた.宮古諸島は,琉球層群主要部の堆積期(1.25 Maから0.4 Ma)には完全な水没を繰り返したが,約0.4 Ma以降に隆起して陸地化した.一方,OMSPは約0.4 Ma以降に沈降し,0.27 Ma以降にはほぼ完全に水没した.約0.4 Maから0.27 Maの間に,陸上動物はOMSPから宮古諸島に移動した.