日本語要旨

マドメガムリオン海洋コアコンプレックスの地球物理学的研究:背弧拡大の終わり

デタッチメント断層は,低速〜中速で拡大する中央海嶺において重要な要素であることが明らかになってきたが,背弧海盆形成におけるその役割についての知見は限定的である.私たちは,フィリピン海の既に拡大を停止した背弧拡大軸部の調査を行い,マドメガムリオン海洋コアコンプレックス(OCC: Oceanic Core Complex)の詳細な特徴と形成過程を明らかにした.すなわち,研究船で得られた海底地形,地磁気,重力に加えて,岩石の年代測定を行い,このOCCの成り立ちを背弧海盆の進化の観点から考察した.マドメガムリオンOCCは,顕著な畝構造を伴ったドーム状の高まりという典型的なOCC地形と正の重力異常を持つ.このことは,デタッチメント断層に沿って深部地殻やマントル物質が浅部に露出していることを示す.デタッチメント断層の末端部は古拡大軸谷に連続しており,マドメガムリオンOCCは背弧海盆形成の最後に形成されたと考えられる.この背弧海盆(四国海盆)では,600万年間続いた海溝に直交する方向の安定した海底拡大の後拡大方向の変化に伴い拡大速度が低下した.拡大速度は,マドメガムリオンOCCが形成される背弧拡大終焉期にさらに低下した.OCC及びそれに類似した構造は,マドメガムリオンOCCの近傍と,その南のパレスベラリフトに沿って多数存在する.このことはメルト供給量が減少してテクトニックな拡大が支配的になることが,背弧海盆形成の終焉において広く共通の現象であることを示している.背弧拡大末期の海底拡大速度の低下は,海溝後退速度の減少に起因する拡大速度の低下を示唆する既存の数値モデリングの結果と整合的である.伊豆小笠原マリアナ弧においては,背弧拡大後半における拡大方向の回転が拡大軸のセグメント化をもたらし,それがリソスフィアの冷却促進とマントル上昇流の抑制につながり,さらに背弧拡大終焉期にテクトニックな拡大が優位になったと考えられる.