1979~2020年にフィリピン中部と南部を通過した熱帯低気圧の強度と進路の変化に関する観測データによる研究
- Keywords:
- tropical cyclone, tracks, topography, Mindanao, Visayas
フィリピン諸島中・南部に位置するビサヤ諸島やミンダナオ島を通過する熱帯低気圧に関しては、これまで観測データに基づく研究があまりなされておらず、これらの島々への上陸前後における熱帯低気圧の特徴の変化に関しては不明な点が多かった。そこで本研究では、1979~2020年の期間を対象に、これらの島々を熱帯低気圧が通過した際に、強度や進路がどのように変化するのか、観測データに基づく研究を行った。ビサヤ諸島およびミンダナオ島を通過した、それぞれ39個、8個の台風に関して、上陸直前、通過後に最大風速や進行速度・進行方向がどのように変化したかを解析した。それらの熱帯低気圧のうち、それぞれ29個、5個が上陸直前と通過直後の間で最大風速が弱くなり、熱帯低気圧が強いほど、風速の弱まりが大きかった。台風強度にまで発達した熱帯低気圧では、ビサヤ諸島とミンダナオ島の上陸時に、それぞれ最大風速が約45%、25%弱まり、それより弱い熱帯低気圧では、それぞれ約20%、25%弱まった。一方で、通過直後に最大風速が強まった熱帯低気圧は、ビサヤ諸島で6個、ミンダナオ島で1個あり、また前者で2個、後者で4個の熱帯低気圧では、最大風速に変化がみられなかった。ビサヤ諸島の通過前後では、系統的な進路の変化はみられなかったのに対し、ミンダナオ島上陸時に、右方(左方)に進路を変えた熱帯低気圧は、通過直後にも同方向に進路を変える傾向がみられた。また熱帯低気圧の速度は、ビサヤ諸島・ミンダナオ島共に、上陸直前と通過直後の間に進行速度が遅くなった。これらの結果は、研究対象地域における熱帯低気圧に伴う災害の軽減に資すると共に、熱帯低気圧の強度や進行速度、進行方向の変化に関する基礎的な知見を与えるものである。