2011年東北地方太平洋沖地震における海底付近の急激な水温上昇について
- Keywords:
- Seafloor temperature, Seafloor pressure, 2011 Tohoku earthquake, Water temperature increase, Built-in thermometer, Ambient water temperature, Vertical structure of water temperature, Warm water discharge, Subseafloor fluid, Turbidity current
2011年に発生したMw 9の東北地方太平洋沖地震の震源直上に設置された8つ海底圧力観測点の温度記録について調査した。温度計は圧力を正確に計測するための温度補償用のもので、機器内部に設置されたものである。熱伝導の方程式を用いて、この内蔵温度計のデータから機器周囲の海水温を推定する方法を提案した。推定された海底水温は、Mw 9地震の発生から数時間後に顕著な上昇を示した。P03(水深1.1 km)の観測点では、地震発生から約3時間後に約0.2℃の急激な水温上昇が発生しその異常は数時間継続した。地震発生から3-4時間後に、GJT3(水深3.3 km)とTJT1(水深5.8 km)では、約+0.2℃と約+0.1℃に達する水温異常が発生し始めた。これらの異常はいずれも数十日かけて元の水準まで減衰した。減衰の最中にTJT1のみ間欠的に数回の水温上昇を示した。地震発生から約2週間後にTJT1を浮上回収する際、海底から約500 m上方まで+0.03℃以内の水温異常が確認された。他の5つの観測点では有意な水温異常は見られなかった。本論文では、これらの海底水温異常の発生プロセスについて議論した。先行研究でも示唆されたように、P03の水温異常は津波混濁流によると考えるのが妥当である。一方、GJT3とTJT1の水温異常は、いずれも海底下の温水が海底に放出されたことによって引き起こされたというシナリオが妥当である。温水の移動経路は、GJT3とTJT1の間の分岐正断層、TJT1付近の逆断層、バックストップに加え、前縁プリズムの逆断層群なども含むと考えられる。提示シナリオは、Mw 9地震後に震源近傍におけるその他の臨時観測に基づく結果とも矛盾しない。GJT3とTJT1の地震直後の水温異常の熱的特性についても推定・議論した。推定された熱量から、これらの断層経路に閉じ込められた地熱流体のほとんどが、Mw 9地震直後に海底に放出された可能性がある。その後のTJT1で複数回見られた間欠的な水温異常は、海洋潮汐荷重の低下によって誘発された可能性がある。