日本語要旨

帰納的機械学習モデルを用いたアリソフの全球気候区分図の更新

1954年に提案されたアリソフの気候区分(図1)は、地球規模の気団帯と前線の季節的な南北移動に着目した、成因的気候区分(気候現象を生み出す原因に基づいた分類)の代表であり、気団気候学(気団論に基づいて気候を評価する学問)の基礎を成している。しかし実際には、区分の境界線が主観的に引かれたかなり模式的な図となっており、夏に降水量の少ないローマと降水量の多い東京が同じ気候帯に含まれているなど、実際の気候分布とは必ずしも対応しないという欠点が指摘される。さらにアリソフは、地表面の状態によって大陸性気候/海洋性気候、あるいは大気大循環の特性によって東岸気候/西岸気候、などのように22気候区に細分化することを試みているが、その際の具体的な手続きは示されておらず、また図示化も行われていない。このように、1950年代になされたアリソフを始めとする先人たちの気団論に基づく気候分類では、客観的な気団域の判定と気候帯の細分化に大きな課題が残っている。

本研究では、全球再解析データに機械学習のクラスタリング技術を適用し、気団域を定量的かつ客観的に決定し、現在の気候を海上も含めてより現実的に表現できる新しいアリソフの気候区分図を作成した。10–3月と4–9月の2半年期間における4つの気団帯の南北変位から9気候帯を設定し、各気候帯における東西方向の気候差異を考慮することにより、さらに27気候区へと細分化した。本研究は先ず、アリソフと同様に地球の気候を4つの気団帯に分けることにより、本来は縫い目のない気候に対して気候自体の持つ不連続性を捉えられるのか、という点に疑いを持つことから始めた。その結果、1950年代にアリソフが行なった4分類が、現代の高品質な気象データを用いたデータ駆動型の観点からも支持される結果となった。さらにクラスタリング技術は、中高緯度の傾圧不安定性に伴う前線性降水を正確に捉えることができた(図2)。本研究で新しく提案した気候区分は、アリソフの気候区分を約70年ぶりに更新するものであり、気象学・気候学研究へのデータ駆動型の機械学習技術を適用する1例として、気団論に基づく成因的気候区分の標準を確立するものである。