日本語要旨

深海タービダイトを使った日本海溝の古地震学:古地磁気・岩石磁気解析によるタービダイトの年代学的・堆積学的研究

水深7000mを超える日本海溝の北緯37°25'から38°30'で採取された堆積物の先行研究では,東北沖の2011年東北地方太平洋沖地震や歴史時代の巨大地震の発生時に,細粒で非常に厚いタービダイトが広範囲に堆積したことが報告されている.この特徴的なタービダイトの空間分布から巨大地震の発生範囲を把握するため,北緯39°,水深7200-7300mの2本のピストンコア中の堆積物を解析した.一般に,水深4500mを超える深海の堆積層の正確な年代を得ることは難しいが,堆積層に記録されている地磁気永年変化と,火山灰層の対比によってタービダイト層の正確な年代を求める事ができた.本研究で得られたタービダイト層の推定年代は、これまでに報告されている年代とほぼ一致し,日本海溝の深海タービダイトが東北地沖巨大地震の歴史的・前史的な巨大地震の証拠である事が確認できた.さらに帯磁率異方性を検討する事により各タービダイト層の堆積条件を把握した.地形的に半閉鎖的な堆積盆では,地震時に堆積する堆積層が細粒・無構造で非常に厚くなる事があり,そのような堆積物はホモジナイトと呼ばれる.日本海溝の海盆も半閉鎖的であり同様な堆積が確認されているが,その形成メカニズムについては明らかでない.帯磁率異方性が示す堆積ファブリックからタービダイト堆積時の流向を推定した結果,少なくとも過去2回の巨大地震で堆積したタービダイトの基部は陸側の海溝海盆では北東方向から,海側の海溝海盆では北北東方向からであることが判明した.これは周辺地形が大きくその流路を決めている事を示している.また,陸側の海溝海盆では流動変形した粒子配列もみられ,地震時の地すべりの発生が示唆される.さらに,タービダイト層の基底部と上部の細粒層の堆積時の流向は必ずしも一致しない事が注目される.これは狭隘な深海盆における複雑な水理条件を示唆していると考えられる.ホモジナイトの成因として閉鎖性盆地での流れの反射や海盆内の流体の共鳴によりおこる細流堆積物の懸濁が成因と考えられているが,今回得た結果は,そういったモデルを検証できる可能性がある.