日本語要旨

セルソーターを用いた海底堆積物に産する珪藻殻のタクサごとの分離濃集法

堆積物中に産出する珪藻化石の地球化学分析を精度良く行うには,珪藻殻をタクサごとに必要量分取する必要がある。しかし,珪藻の小さなサイズゆえに,タクサごとの分離はこれまで実現されておらず,旧来の珪藻化石を対象とした化学分析は試料中に様々なタクサが混在した状態で行われていた。これを解決するため,本研究では,微生物学などの分野で用いられてきた機器であるセルソーターを用いて,珪藻化石をタクサごとに取り出すための手法を開発した。研究試料としては,国際深海科学掘削計画第382次研究航海(International Ocean Discovery Program Expedition 382)で南大洋において掘削されたコア(Hole U1538A)中の堆積物を使用した。本研究では,塩酸および過酸化水素を用いた炭酸塩鉱物と有機物の除去,ポリタングステン酸ナトリウム水溶液を用いた重液分離(粘土鉱物の除去),ふるい分けによる20–32 μm画分の抽出を行ったのち,珪藻殻の光学的特徴(前方散乱・側方散乱)や蛍光特性に注目したセルソーター実験を行なった。その結果,南大洋の珪藻群集を代表する次の5つの分類群をそれぞれ高純度で選択的に分離することに成功した:(1) 中程度の蛍光を示す円盤型珪藻(主にThalassiosira属),(2) 強い蛍光を示すFragilariopsis属(主にFragilariopsis kerguelensis),(3) Rhizosolenia(4) Eucampia antarctica,(5) 針状珪藻(Thalassiothrix属)。本研究で珪藻殻をタクサ別に分取する手法を確立したことで,珪藻殻の正確な地球化学分析(酸素同位体比δ18Oなど)が可能となり,珪藻化石が多産する海域における古海洋学やその周辺分野の研究が大きく進展すると期待できる。