日本語要旨

2011年東北沖地震の余効変動から推定する東北日本弧の不均質レオロジー構造

2011年に発生した東北沖地震(マグニチュード9.0)から10年が経過した現在も、東北地方は活発に変動している。大地震の後に現れる地殻変動は「余効変動」と呼ばれ、その主な原因は上部マントルの流動による「粘弾性緩和」と、震源断層周辺のスロースリップである「余効すべり」である。

この論文では、過去10年間の東北沖地震の余効変動観測から、東北日本島弧―海溝系のレオロジー特性をまとめた。実験室での岩石の流動変形実験から知られているように、粘弾性緩和を引き起こすマントルの状態や流動性は複雑であり、粘性率などのレオロジー特性は空間的にも不均質であることが想定される。しかし、このようなレオロジー特性の不均質性が余効変動にどのように寄与するかはいまだ十分に理解されていなかった。

そこで、沈み込み帯を模擬した簡単な2次元モデルを使用して、マントルの非線形な流動特性やマントルウェッジに存在する低粘性体などの様々なスケールのレオロジー不均質性が地表変動にどのように影響するかを調べた。また、東北沖地震後10年間に発表された20以上の余効変動モデルを比較して、観測とモデルから推定される地下の不均質レオロジー特性をまとめた。これらの研究から、東北日本弧の背弧と前弧側のマントルウェッジの粘性度差が明らかになり、火山フロント近傍で見られる小規模な沈降は、活火山直下のマグマ活動に関連する低粘性体での局所的な変形で説明することができる。

近年の岩石の複雑なレオロジー特性を考慮した余効変動モデルでは、余効すべりと粘弾性緩和の力学的相互作用の重要性が指摘されている。それによると力学的相互作用は時間とともに増大していく。今後、次の大地震につながるプレート固着の回復状況を詳しく評価するには、不均質なレオロジー特性を含んだ地震サイクルモデルにより、余効変動の局所的影響を評価することが重要になる。これらの研究から、これまでの研究ではうまく説明できなかった余効変動の垂直成分が地下のレオロジー特性の不均質性を解明するための鍵であることが明らかになった。今後、稠密観測と岩石の複雑なレオロジー特性を考慮した余効変動モデルによって、東北の地下で何が起こっているかを詳細に明らかにすることができるだろう。