日本語要旨

北部日本海溝陸側斜面で混濁流を発生させるに十分な地震動はどのくらいか?

日本海溝陸側斜面の平坦面であるMid-slope terraceでは、地震動により海底表層の数〜10 cm程度の堆積物が再懸濁・再移動して形成されたと考えられるタービダイトの堆積が知られている。しかし、海溝陸側斜面において、どの程度の地震動があればタービダイトの堆積が起こるかは分かっていなかった。本研究では、北部日本海溝陸側斜面から採取された表層堆積物コアの過剰鉛210とセシウム137の分析を行い、このコアの表層部に挟在する上から3枚のタービダイトが、1968年十勝沖、1933年昭和三陸、1896年明治三陸地震にそれぞれ対比されることが分かった。これら3つの地震を含めたこの海域での最近の地震のパラメータを用いてこの斜面での揺れを計算すると、この場所のタービダイトは斜面域で0.6 g以上の揺れを発生させた地震によって形成された可能性が高いことが分かった。既存研究ではおよそ100年に1枚のタービダイトの堆積が知られているので、北部日本海溝域では100年に一度程度の頻度で、0.6 gを越える揺れの地震が発生していたと推定され、この地域で頻発するM8クラスの地震がその一因と考えられた。本研究で求められたタービダイトを形成するか否かの閾値である0.6 gは、約100 km南で推定された0.4-0.5 gよりも大きく、閾値に地域差があることを示す。今後、タービダイトからの地震履歴の復元では、このような閾値の場所による違いを念頭に置いた検討が必要である。