4D LETKFによる100/1000アンサンブル降雨を入力とした降雨流出・洪水氾濫予測 -2020年7月球磨川洪水を対象として
- Keywords:
- 1000 ensemble, 4D LETKF, rainfall-runoff, storage function model, inundation, shallow water equation, Kumagawa river
本論文では,4次元アンサンブル変換カルマンフィルタ(4D LETKF)を用いて計算された1000メンバーによるアンサンブル降雨シミュレーション(以降,1000アンサンブル降雨(LETKF))を入力としたアンサンブル洪水予測についての研究成果を示している.本研究では,通常二桁程度の現業アンサンブル数と比較して非常に多い1000メンバーからなるアンサンブルシミュレーションを実施した.これは,3次元の気象シミュレーションが本質的にカオス的であるため,アンサンブルシミュレーションにおけるサンプリング誤差を軽減するためである.2020年7月球磨川豪雨時の1000アンサンブル降雨を用いて,市房ダムおよび(建設が想定されている)川辺川ダム流域の降雨流出予測,また人吉市等を含む広域の5m解像度の浸水予測を実施した.リードタイムが1日の本1000アンサンブル洪水計算の結果を,次の3つの降雨を用いた洪水計算結果と比較した.(1) 気象庁メソアンサンブル(MEPS)の21アンサンブル降雨,(2) 1000アンサンブル降雨(LETKF)とは独立して実施された100アンサンブル降雨(LETKF),(3) 1000アンサンブル降雨(LETKF)から無作為に抽出した10組の100アンサンブル降雨.結果として,流域平均雨量を用いる貯留関数法による流出計算および水深方向に流速分布を想定しない浅水流方程式による2.5次元の浸水計算は,降雨分布に加えて,標高等の地形と土壌特性の影響が計算結果に強く反映され,3次元気象場の計算ほど結果の多様性を持たないということが示された.このことは,観測値を用いて事前に洪水モデルのキャリブレーションを実施し,かつアンサンブル降雨計算が観測降雨に比較し一定の精度を保持しているという条件であれば,アンサンブル数を減らしても統計的に一定程度精度が良い定量的な洪水予測が可能であることを示唆している.また,本論文では,流出モデル自体の不確定性を減らすために,カルマンフィルターを適用して状態変数を逐次更新することによる実時間洪水予測の可能性についても検討した.