日本語要旨

ガスハイドレート高圧物性と構造進化の氷天体内部構造推定における重要性

水素やメタン、水の氷は宇宙に最も多く存在する物質で、これらからなるガスハイドレートは宇宙に広く存在していると実験や理論、探査機の観測によって予測されている。ガスハイドレートは低圧下ではクラスレート(ケージ)構造を取り、高圧下では充填氷構造をとる。いずれの構造も水分子の水素結合により形成されたホストとこれに取り込まれた分子や原子のゲストよりなる。ホスト―ゲスト間には化学結合はなく、特異な相互作用が生じており、そのためユニークな物性を呈している。これらのガスハイドレートに圧力が加えられると多様な構造変化をすることから、圧力とゲストサイズ依存の構造変化の一般則が提案された。

次いで、構造変化のメカニズムをメタンハイドレート(MH)について時分割X線回折(XRD)、及び、ラマン分光によって調べ、クラスレート間では “ケージ組み換えメカニズム”ともいうべき独特の転移メカニズムが存在することが明らかとなった。即ち、ケージが次の構造の別のケージに漸次組み替えられていくというものである。

ゲストは低圧、室温下では自由回転しているが、MHと水素ハイドレートの充填氷では低温・高圧下でゲスト分子の配向秩序化が段階的に進行し、それに誘発されて構造が変化し、より安定化する。理論計算では、さらに高圧下でホストに水素結合対称化が生じることが予測されている。このようにハイドレートは周囲の環境(圧力)に応じて、ゲストの配向秩序化やホストの水結合対称化という自己組織化を達成して高圧下で安定な構造ヘと変化していく。この様相はまさに“構造進化”と捉えることができる。

タイタンや海王星内部に匹敵する条件での高温高圧実験により、MHはタイタン氷マントルの限られた領域に熱力学的に存在できることが、一方、海王星の氷マントルには高温のため存在できないことが示された。MHは2.5GPa以上で固体メタンと氷Ⅶに固相分解し、高温下では固体メタンは融解し、さらに分子乖離しダイヤモンドが生成することがその場XRD、ラマン分光、走査型電子顕微鏡で示された。これらの結果は、氷惑星内部構造のモデリングや、磁場形成や熱収支の理解に貢献する。