15-17世紀に形成された北日本の古津波堆積物分布に基づく,千島海溝と日本海溝の屈曲部における津波波源の数値的検討
- Keywords:
- Interplate earthquake, Computational tsunami propagation, 1611 CE Keicho tsunami, Seventeenth-century tsunami, Paleotsunami deposit, Slow earthquake
古津波堆積物の分布調査と津波の数値計算は,千島海溝から日本海溝で発生した津波の波源と規模を明らかにしてきた.例えば,17世紀に発生し,沿岸環境に深刻な被害をもたらした巨大津波として,日本海溝で発生した1611年慶長津波(M 8.1)と千島海溝で発生した17世紀津波(> Mw 8.8)が知られている.しかし,千島海溝と日本海溝の屈曲部に面する北海道から東北地方の沿岸域には,13世紀から18世紀の古津波堆積物がいくつか報告されているが,それらの波源と規模は十分に明らかにされていない.本研究では,下北半島沿岸の関根浜に分布する15世紀から17世紀の津波堆積物の分布を用いて,数値計算により津波波源を推定した.先行研究により提案された断層モデルを用いた数値計算の結果,50 km以内に位置し,ほぼ同年代である関根浜と下北半島沿岸の別地域でみられる津波堆積物は,千島海溝や日本海溝だけでなく,これらの屈曲部まで波源域が伸びている巨大地震モデル(> Mw 9.1)を除いて説明できないことが明らかとなった.
そこで,下北半島沿岸の上記2地域における17世紀付近の津波堆積物を説明するために,パラメータを修正した先行研究のモデルと本研究で新規に提案したモデルの合計12の断層モデルを検討した.これらのモデルを用いた数値計算の結果,上記2地域における津波堆積物分布を説明するには,千島海溝と日本海溝の屈曲部で14–32 m以上のすべり(> Mw 8.55–8.76)を持つ浅部または深部でのプレート間地震が必要であることが示された.また,北海道の胆振・日高沿岸部の17世紀頃に形成された津波堆積物と下北半島沿岸の上記2地域の津波堆積物が同一のイベントによって形成されたと仮定すると,千島海溝と日本海溝の屈曲部で18–40 m以上のすべり(> Mw 8.62–9.2)を持つプレート間地震が必要であることが明らかになった.さらに,北海道から東北地方におけるすべり遅れ分布とスロー地震分布のデータから,この地震は浅部よりも深部のプレート境界で発生した可能性があることが判明した.本研究の成果は,北海道から東北地方の北日本の海域において,M 8以上の巨大プレート間地震が継続的に発生したことを示唆している.