日本語要旨

北日本、下北半島北岸に分布する津波と高潮に関係するウォッシュオーバー堆積物

2011年東北地方太平洋沖地震(Mw 9.0)以降、東北地方太平洋岸の津波浸水地域では数多くの地点で地質調査が実施され、数千年にわたる津波履歴が明らかにされてきた。しかし、地質学的に認められた津波堆積物と歴史記録との対比や歴史津波・古津波の波源を推定することが、新たな課題として浮かび上がってきた。特に東北地方の1611年慶長津波と北海道地方の17世紀津波の波源や同時性は解決の難しい課題である。そこで本研究では、日本海溝と千島海溝の会合点に近い下北半島北岸の関根浜にて津波堆積物調査を行った。

我々は、2つの海岸露頭と内陸(海岸から200〜400 m間)で得られた掘削コアに対して、非破壊分析(X線CTスキャン、μXRF測定)、粒度分析、テフラ分析、放射性炭素年代測定を実施した。その結果、最近6千年間で5つの津波堆積物(TD1–TD5)を認定し、掘削コア間でそれらの側方対比を行った。これらの津波堆積物は下北半島周辺の既存研究で認められた津波堆積物のいくつかと対比された。また、海岸露頭では、内陸の掘削コアでは認められないウォッシュオーバー堆積物が認められた。これらは、掘削コア地点まで達しない、より小さな津波や低頻度の高潮と関連したウォッシュオーバー堆積物であると考えられる。

最も新期の津波堆積物(TD1)の年代は500–300 cal yr BP (西暦1450–1650年)であり、2つの既知の津波(1611年慶長津波と17世紀津波)の双方もしくはいずれかに対比される、もしくは15〜17世紀に起きた未知の津波である可能性が挙げられる。もしTD1が調査地点から50 km圏内で既に認められている津波堆積物に対比されるのであれば、我々は15世紀に発生した未知の津波を今後考慮する必要がある。このように本研究は、日本海溝と千島海溝の会合点周辺の津波波源を考慮するための知見を示すことができた。