テクトニック微動活動の標準化と予測のための更新過程モデル
- Keywords:
- Slow earthquake, tectonic tremor, renewal process, inter-event time, probabilistic forecast, Nankai subduction zone, scaling relationship
世界の様々な地域で、スロー地震と呼ばれる様々なゆっくりした変形現象が発見されている。そのスロー地震の最も高周波数の成分がテクトニック微動(微動)である。微動を解析することで、よりスロー地震の全体像を空間的・時間的にモニターすることができる。微動は、空間的にセグメント構造を持ち、準周期的に繰り返すうえに、発生地域が時間とともに移動したり、潮汐によって強く影響されるなど、特徴的な振る舞いをする。これらの特徴を定量的に把握することで、将来の活動予測に役立てることができる。本研究では、南海トラフの12.5年分の微動カタログを用いて、微動活動の標準化と予測のための確率的更新過程モデルを構築する。微動の発生間隔の分布は、ほぼバイモーダルであり、短いモードは近接したスロー地震との相互作用、長いモードは長期の応力蓄積過程の特徴的な時定数をそれぞれ表している。そこで、更新過程の確率分布として、短期発生間隔と長期発生間隔に対して、それぞれ対数正規分布とブラウンパッセージタイム(BPT)分布を仮定する、混合分布を採用した。このモデルパラメータを最尤法により推定したところ、全活動地域の72%について推定に成功した。この確率過程モデルに従う活動は、微動の標準的な活動と考えられるので、長期のスロースリップ現象に伴うような異常な活動を抽出するためにも用いることができる。微動活動の空間的な違いから、短期と長期の発生間隔、プレート相対運動速度、活動のエピソード性、微動継続時間の間に、物理学的にもっともらしいスケーリング関係を導出することができる。このモデルを用いて、ある基準時刻、ある予測区間における次の微動の発生を、確率予測できることも確認された。本研究は、スロー地震の将来予測のための、たたき台となり得る。