日本語要旨

海溝軸近傍の海底地震観測により検出された2011年東北地方太平洋沖地震直後のテクトニック微動

2000年代初頭から世界各地の沈み込み帯を中心に,スロー地震と呼ばれる通常の地震とは異なるすべり速度を有する現象が観測されてきた.テクトニック微動(微動)はスロー地震の一種と考えられており,日本海溝においても2016年以降の微動活動が明らかになっている.日本海溝は2011年東北地方太平洋沖地震(東北沖地震)の発生域で,その地震時すべり域と微動発生域が棲み分けていることから,スロー地震発生域が巨大地震の地震時すべり発展のバリアとして働く可能性が指摘されている.このように,日本海溝では巨大地震とスロー地震の空間的な関係の理解は進んできたが,2011年の巨大地震発生前後における微動活動は明らかになっていなかった.そこで本研究では,巨大地震の発生がその震源域周囲における微動活動に及ぼす影響の理解を目的とした.解析には,2011年東北沖地震直後に日本海溝北部で行われた海底地震観測の記録を用いた.微動と同様にスロー地震の一種である超低周波地震の発震時刻を手掛かりに,海底地震観測記録を確認した結果,典型的な微動の特徴として知られるP・S波の到来が不明瞭な数Hzに卓越した波群を確認することができ,これらが超低周波地震の震源近傍で発生した微動による信号と解釈した.この観測波形をテンプレートとして,超低周波地震が検出されていない時期も含めた微動の網羅的検出を,スペクトルと観測点間の最大振幅分布の類似度を指標として行った.その結果,東北沖地震直後の微動活動は海底地震観測直後が最も高く,その後2度の活動度の上昇を認めながら減衰する様子が捉えられた(図a).こうした活動度の時間変化は,東北沖地震またはその最大余震の余効すべりの影響による微動活動が時間とともに減衰する一方で,この領域に固有な準周期的なスロースリップが自発的に生じたことによる短期的活発化が発生していたことを反映したものと解釈した(図b).こうした巨大地震発生直後の微動活動に関する観測事例は少なく,スロー地震と巨大地震との相互作用を理解する上で重要な知見が得られた.