大阪湾の堆積物コアにおける過去400年間の金属汚染
- Keywords:
- Trace metal, Enrichment factor, Zinc isotope, Osaka Bay, Sediment core, Sequential extraction
近畿地方は有史以来,長らく政治,経済,文化の中心地で,20世紀以降は京阪神大都市圏を形成し,繊維工業から重工業に至る近代化を経験した。人為活動の進展は多様な資源と金属の利用を伴い,その履歴は自然変動を越える金属の濃集や同位体比の異常として海洋堆積物に記録される。産業革命後は加速度的に金属汚染が進行したが,それ以前の金属の負荷量と歴史イベントの関係性や,現代の負荷量との比較は難しかった。沿岸域の堆積物コアは汚染源に近く,また堆積速度が早く高時間解像度の記録が得られることから,歴史時代の金属汚染の復元に最適なアプローチの一つである。本研究では大阪湾から採取された9 mの海底堆積物コアを対象に,BCR逐次抽出法によって過去2300年間の微量金属の汚染記録を復元し,このうち過去400年間については高時間解像度の記録を得た。さらに亜鉛の同位体比(δ66Zn)から人為的な亜鉛源の同定を行った。銅,亜鉛,鉛は西暦1670年代から最初の濃集が認められ,人口と人間活動の増加が要因と考えられる。その後,微量金属濃度は1870年代から徐々に増えはじめるが,20世紀初頭から顕著に増加した後,環境汚染防止法が施行される前の1960年頃にピークに達した。これらの人為的に排出された微量金属は,酸分解性ならびに還元性の物質に濃集していることから,炭酸塩とマンガンオキシ水酸化物がホスト相であることがわかった。δ66Znは1940年代までは岩石の値(+0.27‰)の範囲にあるが,1950年代から現代にかけてタイヤ,工業廃液,廃水処理場などを起源とする人為汚染の亜鉛同位体組成(+0.17‰)に近づくため,高度経済成長期以降に工業製品からの亜鉛の環境負荷が顕著に増加したことがわかった。