西部太平洋熱帯域に於ける鉛直流の時空間変動と10年規模変動との関係
- Keywords:
- Western tropical Pacific, ENSO, PDO, Vertical velocity, P-vector inverse method, AGEM
太平洋10年規模振動(PDO)の負の位相に先立って, 北太平洋西部熱帯海洋の表層水は昇温することが知られている.表層(<100m深)水温に対する亜表層水の湧昇の影響を見積もるために,鉛直流速の変動特性を調べた.西部太平洋熱帯域で取得されたアルゴデータ(2001年〜2017年)および海面高度計データ(1993年〜2017年)に,Altimetry-based Gravest Empirical Mode(AGEM)法を適用し,深度100mから1000mまでの3次元ポテンシャル密度場の時間変動を求めた.さらに,ポテンシャル密度とポテンシャル渦度の保存に基づくP-ベクトル・インバース法を用いて,100m以深の鉛直流速をAGEMポテンシャル密度から推定し,季節から準10年(QD)規模の時空間変動特性を調べた.
顕著な上昇流(>10-6 m/s)が亜熱帯循環の南部である北赤道海流域の10-17˚N, 140˚E-180˚に平均的に見られた.エクマン湧昇に加え,この上昇流が亜表層の低温の海水を表層に移流し,北太平洋西部熱帯域の表層海洋を冷却することに寄与している.ラニーニャ(エルニーニョ)の頻発に伴うQD規模の亜熱帯循環内部領域の流れの強化(弱化)によって上昇流は強(弱)くなることが分かった.
上昇流の弱化は,PDOの正位相の数年後に見られる北太平洋西部熱帯域の表層水温の上昇に寄与し,その大きさは0.2˚C程度かそれよりも大きい.このQD規模の水温変化は北太平洋亜熱帯循環の西岸境界流である黒潮による熱輸送を通して,PDOの位相反転に影響を及ぼしているかもしれない.