日本語要旨

GNSS搬送波位相から直接断層すべりを推定する手法による地震時すべり・初期余効すべりの連続推定:2011年東北地方太平洋沖地震の例

地震時すべりから初期の余効すべりに至る遷移過程は,断層のすべり収支や摩擦特性の把握に非常に重要である.しかし既存のGNSS測位解析は断層すべりと大気遅延等の誤差要因との分離困難性のため,数分から半日の時間スケールで精度が低下する.このため,特に半日以内の初期余効すべりを扱った研究はごく少数である.そこで我々は測位解析に替わる新たなアプローチとして,GNSSの生データである搬送波位相の変化から直接断層すべりを推定する手法 (PTS,Phase To Slip) の活用を試みた.同手法は位置の推定を介さず,断層すべりと他の誤差要因の時間変化を直接同時推定する.したがって両者の推定・分離状況の一体的な定量評価が可能であり,分離精度向上の議論に有用である.本研究では2011年東北地方太平洋沖地震の本震の前後の約2時間の1Hz搬送波データにPTSを適用し,地震時すべり・初期余効すべりの時空間発展の連続推定を試みた. その結果,Mw9.0の本震,茨城県沖で発生したMw7.8の最大余震,岩手県沖で発生したMw7.4の余震の3つの地震時すべりをPTSで連続的に推定することに成功した.得られたすべり分布やマグニチュードは,いずれも通常測位を用いた推定結果とよく一致した.これに加えて本震のすべり域の深部延長側で初期余効すべりが推定され,青森県・岩手県・宮城県付近に3カ所のすべり域が推定された.推定結果は初期余効すべりの開始時刻の空間不均質を示し,岩手・宮城のすべりの開始時刻に数分から10分程度の差が示された.また,すべり量は本震直後の34分間で0.1〜0.2m,解放モーメントは岩手・宮城のすべり域の合計でMw7.4相当となった.これは通常測位を用いて後処理で推定されたモーメント量と同等かやや大きい.以上のように本研究ではPTSを用いて,複数の地震時すべりと地震直後数分から数十分の極めて短時間の初期余効すべりの時空間発展とを一括で推定することに成功した.同結果は広帯域な断層すべりモニタリング手法としてのPTSの有用性を示すものであり,特に初期余効すべり実態解明への意義は大きい.