日本語要旨

ULTIMATE(ULTra-sIte for Measuring Atmosphere of Tokyo metropolitan Environment: 首都圏大気環境測定ウルトラサイト)プロジェクトによる地域・全球モデルにおける雲・降水過程の評価。二重偏波ドップラー気象レーダーを用いたケーススタディ

首都圏大気環境観測ウルトラサイトにおける数値モデルと観測データの連携研究プロジェクト ULTIMATE(ULTra-sIte for Measuring Atmosphere of Tokyo Metropolitan Environment)について解説する。これは、首都圏の多様な観測データを用いて、数値モデルの雲微物理スキームを評価するものである。本プロジェクトを通じて、特に2023年に打ち上げ予定のEarthCARE衛星の地上検証のために強化された観測データを含めて、現業利用や研究のための東京圏の様々なリモートセンシングや現場観測データを利用することができる。本研究では、気象庁が運用する二重偏波ドップラー気象レーダーの利用に焦点を当てる。数値モデルとしては、シングルモーメント(SM)とダブルモーメント(DM)の雲微物理スキームを持つ複数のモデルを用い、全球非静力学モデルNICAM(Non-hydrostatic Icosahedral Atmospheric Model)とASUCA(A System based on a Unified Concept for Atmosphere)とSCALE(Scalable Computing for Advanced Library and Environment)による領域モデルを比較利用した。特に、NICAMは全球モデルとしても領域モデルとしても利用できるため、改良したスキームが気候場に与える影響や気候感度の評価を全球規模で直ちに試すことができる。

本論文では、観測シミュレータを用いた二重偏波ドップラー気象レーダーによる数値モデル評価手法を紹介し、数値モデル結果と観測結果を比較する。特に、地上付近の下層における雨や融解層直上の大きな氷粒子のシミュレーション結果を評価する。NICAM-DMを用いたシミュレーションでは、観測と同程度の雨の偏波レーダ特性を再現することができた。しかし、NICAM-SMとASUCA-SMを用いたシミュレーションでは、強い雨域では観測と比較して雨粒の大きさが大きくなっていた。高度4km付近の融解層直上の大きな氷粒子については、NICAM-DMとASUCA-SMは霰や雪の粒子サイズを過大評価していることがわかった。今後の研究では、今回の結果を用いて雲微物理スキームを改良し、全球モデルでの検証を行う予定である。